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Hated John⑧
「どうして、こんな事したの?」
少しだけ、姉ちゃんの口調が和らぐ。
「・・・そんなに、私達といるの、嫌だった?」
弱々しい声にドキリとする。
「ごめん。果穂の事に手一杯でさ、肇ちゃんに気を遣ってあげられなかった。多分優二もそう。許してあげて」
なんで姉ちゃんがそんな事言うんだ。
てか普通に考えりゃ想像つくよ。気を使うとか、ガキじゃねえんだから。
次から次へと言葉は浮かぶのに、どれを言ったらいいか分からずずっと黙ってた。
姉ちゃんもしばらく押し黙った後、ふーっと息を吐く。あ、ヤバイ、と思った。姉ちゃんを怒らせて説教に入る前の癖が出た。
「あのね、私個人の意見としては、肇ちゃんの好きにすれば良いと思ってる」
思わず目だけで姉ちゃんを見る。でも、姉ちゃんの顔は怒ったままだ。
「あくまで私の意見。そういうことに興味あるだろうし、男の子だし」
そういう事でしかどうにもできない気持ちもあるし、と目を伏せる。姉ちゃんにもなんかあったんだろうか。
「でも、大人の意見としては、」
姉ちゃんの顔と声が前に向き直る。
俺がそっぽを向いたまま黙っていると
「セックスはまだ早い!」
なんて言ってテーブルをぶっ叩くもんだから、ギョッとして姉ちゃんの方を見ざるを得なかった。
「そういうことは、自分で責任とれるようになってからにしなさい」
真っ直ぐな姉ちゃんの目が俺を捕らえる。
目を反らせない。
「ちゃんとしてないと、アイツはゲイだから、なんて言われるよ。私も会社でアイツは女だから、なんて未だに言われることあるんだから。
学校の事も、仕事も、家の事もちゃんとやって。
そうすれば、肇ちゃんに口出しする資格なんてもう誰にもない。
ゲイだからって、誰にも文句言わせんな」
言ってることはめちゃくちゃだったけど、姉ちゃんは最後まで俺を真っ直ぐに見ていた。
「まずは、もっと早く家に帰ってきて。わかった?」
黙っていると、返事!とまた机を叩くもんだからわかった、と応えた。姉ちゃんはよし、とニッコリした。
「私、果穂と横になってくる。優二と代わってあげなきゃ」
姉ちゃんは寝室に向かった。
「姉ちゃん」
気がついたら、声をかけていた。
「俺ここに居ていいの?」
「当たり前でしょ。手伝って欲しいこといっぱいあるんだから」
頭ん中がふっと軽くなった。
あ、なんだ。こんな簡単な事だったのか。
それから姉ちゃんはニヤッとして、
「変なビョーキ貰ってこないでよね。後避妊しなよ」
呆れて笑えてきた。男同士でガキができるわけねえだろ馬鹿か。しばらくして、姉ちゃんと入れ違いに優二が寝室から出てきた。
「悪い、俺にはやっぱ理解できない」
気分が沈んでいくのが分かった。
優二は寝室の方を見る。姉ちゃんになんか言われたんだろうか。
「・・・由香里や果穂を巻き込むような事だけはするなよ」
優二はもう何も言わずに、背広を脱ぎながら風呂場に向かっていった。もっとなんか言われると思ってたけど、拍子抜けしてしまった。わかって貰おうなんてハナから思っちゃいない。
でも、2人とも頭ごなしにヤメロなんて言って来なかった。絶対気色悪いとか言われると思った。
安心して、にやけてきて、それから少し泣きそうになった。
それから姉ちゃんは、どうせほっつき歩くなら夜泣きする果穂をおんぶしていけ、だのオムツやミルクを買ってこい、だの俺をコキ使うようになった。
それこそセックスする暇が無くなるくらい。
優二に礼を言われたり褒められたりするのも気分が良かった。単純なもんで、俺は少しずつ家にいる時間が長くなっていった。
だからアイツの事なんか俺も忘れてた。
まさか今になって、ジョンとセックスすることになるなんて思わなかった。
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