38 / 38

独りんぼエンヴィー③

「あーあ、イッちゃった」 恍惚さを孕んだジョンの声はめちゃくちゃエロかった。ティッシュどこだっけ、と後ろの座席を探る気配がした。 「全然見えないんだけど。あ、あった」 ティッシュを引き抜く音がして、ジョンの身体がこちらに戻ってきた。俺にも渡される。 「俺イッてないんだけど」 絶対ニヤニヤしてやがるコイツ。 「ホテルで抜いてやるよ」 「じゃ挿れていい?」 「いいよ」 「へえ、ネコだったんだ」 「リバだよ」 「マジで?どっちもいけるんだ」 ジョンはシートベルトを締めた。 「あ、パンツはいた?」 「とっくにしまったよ」 俺もシートベルトを引く。 「じゃホテル行こっか」 ジョンは嬉々としてキーを回した。 ホテルでもジョンはやりたい放題だった。 泡風呂でヤッてみようぜ、とかカーテン開けてみない?とか。まあ付き合ったけど。そしたら 「この変態」 と艶のある唇を無駄にエロく引き伸ばしながら言われた。散々付き合ってやったのにその言い草はなんだ。 「お前相当遊んでんだな。見た目が大人しそうなヤツがヤバイってマジなんだな」 ジョンはシャワーを浴びた後、濡れた髪を拭きながら言った。タオルがとらえきれなかった滴が均整のとれた筋肉の凹凸に沿って流れていく。もうクタクタなのにムラっときた。 「警官とかがハメ外す時ヤバイってのもマジなんだな」 服を着ながら言い返してやった。 「ストレス溜まるんだよ」 「まだ警察官やってんの?」 「やってるよ。お前は?」 「フリーターだよ」 そうじゃなくて、と前置きして 「ちゃんと家帰ってんの?」 と聞かれた。 「帰ってるよ」 と答えると、そっか、と安心したようにジョンは笑った。  「ま、ちょっとはマシな顔するようになったしな」 「しっかり覚えてんじゃねえか」 「思い出したんだよ。いやあ、16歳に手ェ出してビビっちゃってさ。ちょっと大人しくしてたらお前どっか行っちゃうし」 それが避けてた理由か。やっぱコイツはクズだクズ。 「寂しかった?」 ジョンはにっと歯を見せて笑う。 「全然」 その頃はヤリまくってたからな。今はカホやユウジもいる。 「あれ?何それ」 服を指差されて、腰の後ろの辺りを見てみると、キャラクターのシールが付いていた。 「カホだな」 アイツ帰ったらどうしてくれようか。 てかユウジも気づいてたな。どうりで出かける時ニヤニヤしていたはずだ。 「何、子どもいるのお前」 「姪っ子だよ」 「へえ、今いくつ?」 「4歳」 「そっか、ガキはいいよな。制服着てるだけで目ぇキラキラさせてさ。 俺、ガキの頃はカッコイイおまわりさんになりたかったんだよな」 そう言うジョンの目にも流れ星のようにキラリと光が通り過ぎた。すぐに甘いマスクに苦々しさが混じって、今はこんなやさぐれたヤツになっちまったけどな、と眉を下げながら笑う。 ヤツがなんで警察官を続けているのか、いつもニコニコした笑みを貼り付けていたのか、分かった気がした。 ホテルから出て車に乗り込むと、ジョンは 「今も住んでるとこ変わってないの?」   と聞いてきた。 「送らなくていい」 「じゃ、駅まで。あ、ガソリン代はいいよ」 無茶振りにも付き合ってもらったし、と妖艶に微笑む。無茶振りってのも全然許容範囲だったんだけど黙っとくか。コイツも相当だけど俺マジで変態なんだな。 駅のロータリーに車が停まると、あの時と同じように去り際にキスされた。 「よかったらまた連絡して」 「気が向いたらな」 「アハッそれでもいいよ、またな」 走り去る黒いフィールダーは、夜に溶けていった。 変な気分だった。あの頃はあんなに帰りたくなかったのに、今は早く帰って眠ってしまいたくて仕方ない。 翌朝、起きてきたカホに朝一でデコピンしてやった。 痛がってたから昨日貼られたシールを額に貼ってやる。 「コラ。もうすんなよ」 「痛い!ハジメちゃんのバカ!おまわりさん呼ぶよ!」 思わず笑いそうになった。 「コラ、イタズラしたのはカホだろ。ごめんなさいは?」 ユウジが朝食を運びながら言う。オイ、お前が言うな。昨日の内に言っとけ。 「・・・ごめんなさい」 ふくれっ面をしてたから頬をつついてやる。 口から空気がぶっと出てきて、カホはケタケタ笑い出した。 「おい、できたぞ」 「ハジメちゃん、おいで!」 ユウジが俺を呼んで、カホが俺の手を引いていく。 悪くない気分だった。 WALKMAN ーendー ーーーto be WALKMAN 2nd

ともだちにシェアしよう!