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独りんぼエンヴィー②
「そうだそうだ、そんな事もあったっけな」
少しだけ昔話をしてやると、ジョンは大笑いしていた。俺はヤツの顔を見てすぐ思い出したが、向こうは綺麗さっぱり忘れていたようだ。
「お前もアプリやってたんだな」
「まあな」
すげえ偶然っちゃ偶然だが、ゲイの世界は狭いからな。逆にアプリで会ったヤツがバイト先に客として来た事もある。
「そろそろ出よっか」
外はまだ寒いけれど、ペラペラのジャケット一枚でも我慢できるくらいだった。
ジョンはコインパーキングに向かって歩いていく。
「車はナシなんじゃなかったのか」
「覚えてたんだな。エライエライ」
どっかで聞いたことのある台詞だ。
「でも、俺は知らないヤツじゃないだろ。それとも帰る?」
返事の代わりに舌打ちをして、黒いフィールダーに乗り込んだ。
「お前いくつになった?」
ジョンは車を郊外に向かって走らせながら聞いてきた。
「21」
「そっかあ、お前かわいかったのにすっかり野郎になっちまったな」
まだ可笑しそうにしている。
「まあ今でもよく見たらちょっとかわいい顔してるかな。ノンケに見えるし。全然タイプだよ」
長い睫毛を伏せて、妖しく視線をこちらに流してくる。
ていうか何処まで行くつもりだよ。周りにもう何もないんだけど。申し訳程度に時々街灯が建っていて、ヘッドライトだけが頼りだ。スピードもがっつり落ちた。
「いつもラブホでヤッてんの?」
「そうだけど」
「じゃあ、ちょっと違うことしてみよっか」
言うなり脇道に入っていって、街灯もない道で車を停める。
ジョンはエンジンを切って、シートベルトを外した。
「我慢できない。ここでシていい?」
消えて行く室内灯の明かりに照らされたジョンの顔は、背筋が冷たくなるほど妖艶だった。
「別にいいけど」
もう真っ暗で顔も見えないはずなのに、ヤツがニヤリと笑った気がした。突然、車のシートが倒されて、背中と頭を軽く打った。
「倒すなら」
倒すって言えよ、と言う前に柔らかいものが口に押し付けられた。だから言えよ。
口を少し開いて舌を受け入れる。唾液を上手く喉に流せるようになって、腕を自分から伸ばす俺に
「あーあ、初々しかったのになあ」
と楽しそうに囁いた。
ジョンの手がTシャツの下から入ってくる。
胸の辺りをさ迷って、先を探り当て摘まれた。暖房が切れたせいか少しスースーする。
「もう勃ってんだけど」
ちょっと暗さに慣れてきたけど動く気配が分かるくらいで、表情は全然見えない。ただ愉しそうにしてるのは分かる。
「舐めていい?」
「好きにすれば」
ジョンはこちらに身を乗り出すが、サイドブレーキが邪魔、とくつくつと喉を鳴らした。
乳首を押し潰すように舐めながら
「気持ちいい?」
と聞いてくる。
「いちいち聞くなよ」
「だって顔見えないし」
「じゃホテル行けばいいじゃねえか」
「ヤダ。一回イッてから」
太腿を伝って、ファスナーに手がかけられる。
暗くて全然見えない、と言いながらもペニスを取り出された。
「アハッこっちも勃ってる」
「言葉責めウザい」
「俺は大好き」
そこに手を当てたまま身体にのしかかってきて、耳元に唇を当てられた。くすぐったいけれども、吐息に湿った耳に声が響くとぞわりとする。
ジョンの手がゆっくりと動き始めた。
「気持ちいい?声だしてよ」
「いやだね」
そう言われると出したくなくなる。
息が深くなってきた。真っ暗な中に水音が響く。わざとだなこの野郎。耳元で感じる息が濃くなってきている。ヤツも昂っているのだ。
「イクまでやっていい?」
声を我慢しながら頷く。
俺のも握って、と手を持ってヤツのペニスに導かれる。硬くなってたソレを手の平で包むと、ピクリとジョンの身体が揺れた。
「ゆっくりでいいから擦って」
ヤバイ。持たなくなってきた。白いチカチカした光が舞っている。
「ほら、頑張って」
ジョンが手を重ねて俺の手を動かす。
クソッタレ。楽しそうでなによりだな。
俺の喉の奥からくぐもった声が出ると同時に、どろりと温かい液体が溢れた。
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