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6『春雷』
轟く雷に体を震わせ、じっと稲妻の光に浮かび上がる形を凝視した。
儚くも妖しげな満開の桜は、今はまるで、奈落から這い出る生物のように不気味に蠢く。
「……そこから、出たいのか……」
呟き出た声も、空気を震わす轟音にかき消され、ただ、ただ、桜の木の下で立ち尽くす惨めな男が、肩を小さくしている。
男が見つめるのは、可憐な花弁などではなく、その下にあるはずのモノ。
その塊を養分に大きく成長した桜は、男を責め続けるのだ。
それでも。
男は満足だった。
そばにいる。ずっと。死ぬまで。
彼はそこにいるのだーー。
もう、逃げようとすることもない。
ただ、ただ、
それだけで……
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