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第9.5話 ぬいぐるみだった少年のそれから

 どんなおとぎ話も物語のあとの物語がある。運命の出会いをした王子様とお姫様にも、その後の話があるだろうし、村を怪物から救った英雄は、物語が終わったあとも冒険を続けるだろう。  この物語も似たようなものだ。雪の魔法にかかり人間となった黒猫のぬいぐるみは、物語が終わっても生き続ける。  その話を今年もサンタクロースの良い子リストに載っているキミだけに、特別に教えてあげよう。  ただし、少しだけしか教えてあげられないよ。なんて言ったって、ニッセとサムの物語は始まったばかりだから…… 「サムっ!早く起きないと遅刻しちゃうよ!」 「うーん……あと10分……」 「ダメだって!もう一度遅れたら悪い子リストに載っちゃうってサンタさんが言ってたでしょ?」  雪の魔法が解けたサムは、ニッセと仲良く暮らし始めた。クリスマス休暇が終え、仕事に戻らなくてはいけないニッセにくっついて、サムも工場で仕事を始めたのだ。    朝が苦手なサムはベッドで丸まった。カーテンの隙間から洩れる光がまぶしすぎて毛布を頭から被ると、髪だけがふわふわと顔を出す。  そんな様子を目撃したニッセは、猫みたい、とほほ笑み可愛すぎる恋人の肩を優しく揺すった。 「ほら、朝ごはんできてるよ!今日はパンケーキだよ」 「パンケーキ?!」 「ふふ、起きた?」 「うん!」  寝ぐせで跳ねるサムの黒髪をニッセが撫でる。むき出しになった額に口づけがおくられると、色白の少年が嬉しそうにはにかんだ。  早起きしなくてはいけないのが難点だが、サムは人間の生活を楽しんでいる。優しいニッセと過ごす毎日はどんなに寒い冬でも暖かく感じるほど、優しく幸福感に包まれていた。  あれから雪の魔女がサムのもとに現れることはなかった。魔法が解けたサムに用はないのかもしれないし、仲の良い二人のぬくもりのせいで近づけないのかもしれない。それならそれで良いんだ、とサムは思っていた。 「ニッセ、靴下が見つからない!」 「ストーブの前に並べておいたでしょ?」  人間の生活にまだ慣れていないからなのか、もともとそういう性格なのかは分からないが、サムはとても甘え上手だった。そんなサムをニッセは愛し、十分に甘やかした。 「お願い、お着替え手伝って?」 「しょうがないなぁ」  サムの生い立ちは、誰もが信じられる話ではない。世の中にはおとぎ話より不思議な出来事が起こることもある。それを信じるか信じないかは、その話を聞いた人次第。信じても信じなくても、事実は変わらない。  物語の主人公たちが、起こったことを信じている限りそれは事実となる。  サムの物語も同じだ。  ニッセとサムは物語のような出会いに感謝し、お互いを何よりも大切に思っている。だから、この物語は世界が果てるまで事実として残るのだ。 「靴下、よし。手袋、よし。お弁当、よし。サム、行くよ!」 「うん!ニッセ、手つないで行こ?」 「もぅ、なんでそんなに可愛いの?!」  何よりも、この二人の物語はまだ始まったばかり。これから、何章も何章も話が紡がれていくのだ。  続きが気になる気持ちもわかるが、今は幸せそうに仕事に向かう二人をそっとしておいてあげよう。しばらくして戻ってきてもニッセとサムはずっと一緒にいるはずだから。 「いってきます!」 「走らないと送れちゃうよ、サム!」  こうして二人は末永く幸せに暮らしましたとさ。  終わり。    

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