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「あの、まだ困ったことありましたか?」
「いや、その…あー…」
一体何を言い淀んでいるのだろうか…?さすがにコンタクト入れろとか言われたら怖くて出来ないぞ。
しかし言いたいことはそれとは違うようで、暫く待っていたら会長がぼそりと呟くように声をあげた。
「か…かっこいいな、お前」
「は?」
驚いて会長の顔を凝視すると、俺の視線を感じたのか頬を染める。
「…俺あんたのコンタクト割った奴ですよ」
「そっそうだが…でもあれは不可抗力みたいだったし、それにお前…優しかったから、だから…~ッ、格好いいなって思ったんだよ悪ぃか!!」
褒められてるはずなのに何故か怒鳴られて面食らってしまった。
「ぷ…ふふっ、あはは!」
「なっ、んで笑うんだよ…!」
「だって、ははっ俺が格好いいとか…!」
今までこんなことなかったんじゃないかってくらい声を出して笑う俺を見て、会長の顔がみるみる羞恥で真っ赤になっていく。
だって、自虐じゃないけどその言葉があまりにも不釣り合いすぎて笑えてきたんだからどうしようもないだろう?腹が痛くなるまで笑った頃には息も絶え絶えになっていた。
「気は済んだかよ…」
気づけば会長が拗ねた表情で唇を噛みしめていたものだから、唇に手を伸ばしてそれを止めさせる。
「ふ…あんたって本当に目ぇ悪いね」
唇に当てていた手を頭に移動させて、くしゃりと彼の髪を撫でた。会長は拗ねた表情から一転して、目を瞬いて何が何だか分かってないって顔をしている。
「今度からはコンタクト落とさないようにしてくださいね」
ひらりと手を振って俺は部屋を後にする。会長は未だに惚けた様子で、その場に佇んでいた。
自室へ帰ろうと一人で役員フロアの廊下を歩く。会長、変わった人だったな。変わってて、でもどこか可愛い人だった。
ああでも、あの人俺の顔見えてないんだっけ。じゃあこれっきりか。もう、この先話すこともない。
「…何か、寂しいな」
さっきまで感じていた温もりがないだけで、背中ってこんなに寒くなるものなのか。でも、それが普通だ。
…これが、日常。
明日からまた、俺は何でもない一般生徒へと戻る。
――…なーんて感傷に浸っている場合じゃないぞ、昨日の俺。
今の状況。移動教室でクラスメイトと談笑しながら廊下を歩いていたところ。
さらに今の状況。すれ違いざまに誰かに腕を掴まれたところ。
そしてたった今。振り向いた先にいたのは…昨日会ったばかりの生徒会長様。
「見つけた」
にやりと少し意地悪く笑った会長は 、離さないとばかりに俺の腕を力強く掴む。
「何で…だってあんた俺の顔、」
「言っただろう。俺はな、耳だけはいいんだよ。…昨日耳元でずっと聞いていた声だ、聞き間違えるわけがない」
そう言って距離を詰めた会長は俺にぎゅむ、と抱きついてきた。
「な、」
「この感触と温かさも、昨日と同じだ」
暫く抱きついて満足したのか、今度は目線を上げて俺の顔をまじまじと見つめてくる会長。
「しかし、俺の言葉を否定するからよほど容姿に自信がないのだろうとは思っていたが…本当に普通だな」
「悪かったですね平凡で。放っといてくださいよ」
「でも、」
まだ何か言うことがあるのかと半ば呆れ気味に目を向けると、彼が愛しい人でも見るように目を細めて俺を見ていたものだから少したじろいでしまった。
「平凡だけど…やっぱり俺から見たら格好いいよ、お前」
「は、」
言われたことの意味を飲み込むのに時間がかかる。そんな俺の動揺に気づいていないのか、会長はそんなことはお構い無しとばかりに俺へと擦り寄ってきた。
ああもう、この人は。
「くっ…ははっ、」
「何だよ、また笑って」
「いや?ふっ…あんた、やっぱり目ぇ悪いわ」
「失礼だな、今日はコンタクト付けてるぞ」
「はいはい分かってますよ。… そんだけ褒めるんだから、これから覚悟しなよね」
そう言って、俺は苦笑しながらしっかりと会長を抱きしめ返した。彼の瞳にこれからの俺の姿は焼きつくだろうか、なんてことを考えながら。
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