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寮への道を会長を背負って歩く。 「本当にすまない…」 「今日の会長は謝ってばっかですね。俺の方が悪いことしたってのに」 「だってこうして今もお前に迷惑を…」 「普通は、謝罪されるより感謝された方が誰でも嬉しいと思いますけどね?」 少し振り返ってちらりと会長を見遣ると、彼は頬を色づかせて口を開いた。 「あ、ありがとうっ…」 一生懸命に言う姿が何だか可愛らしくて笑みがこぼれる。すると会長が背中からずい、と身を乗り出して俺の顔を凝視してきた。 「何すか…」 「んー…やっぱ見えねぇ。この距離ならお前の顔が見えるかと思ったんだが…」 この距離、って…鼻と鼻くっつきそうなんですけど…。 「お前どこの家の者なんだ?俺の家の傘下…とかだったらそんな態度とらねぇわな」 くつくつと笑う会長の吐息が首元にかかるのが擽ったくて、少し身を捩る。 「残念ながら俺はどこの家の傘下でもありませんよ、一般家庭出身の特待生ですから」 「庶民なのに俺をぞんざいに扱ってたのか…!お前、変わってるな…」 「いや、元を正せば日本は階級社会じゃありませんからね?この学園が金持ちばっかだから感覚おかしいだけですよ」 素直に言うと、会長が堪えきれないといった感じでまた笑いだした。だから首元が擽ったいんだけど…。 「そうやって馬鹿正直に言うところが、やっぱりお前は変わってる」 「はぁ…そんなもんすかね。ていうか会長、予備のコンタクトレンズとか眼鏡とか持ってないんですか」 「予備は家に置いてきてしまってな。眼鏡も、今日に限って生徒会室に忘れた」 「…ツいてないですね」 「いや、そうでもないぞ?こうしてお前みたいな面白い奴に会えたしな」 今よりも更にきつく抱きつかれて、会長の声がすぐ傍に響く。耳元で聞こえているというのにその声を煩いとは思わず、寧ろ心地よささえ感じてしまうのは何故だろう。 「寮に入りますから、俺の首元に顔埋めといてください。バレたら面倒なんで」 「おう、分かった」 気がつけば校舎を出た頃と比べて後ろの温もりがはっきりと感じられるほどにまで近づいていた距離に、 不思議と嫌悪感は感じなかった。 ――向かう先は役員フロアだったので特に誰かとすれ違うということもなく、無事に会長を送り届けることができた。 「すまなかったな、助かった」 「言うことは『すまなかった』じゃありませんでしたよね?」 「あ…ありがとう」 「はい。では、俺はこれで」 軽く会釈して彼に背を向けた少し後に、ガツンッと鈍い音が響いた。嫌な予感がして振り返るとそこには涙目で蹲る会長がいる。 …まさか、な。 「あの、何してんですか」 「~ッ!ど、ドアかと思ったら壁だった…」 「……ハァ」 踵を返して会長の前に屈む。 「あーあ、鼻真っ赤じゃないですか」 「うるひゃい…!」 「ぷ、変な声」 まぁ鼻摘まんだのは俺なんだけど。 …しかし話に聞いていた会長と今俺の目の前にいる会長は本当に同一人物なんだろうか。周りからは容姿端麗、才色兼備、仕事をやらせれば完璧にこなす2次元から出てきたような人だと聞いていたんだが、今のこの人は壁にぶつかるわ人の顔認識できねぇわでほとんど正反対だぞ…? …でも、なんか放っとけねぇっていうか、世話やきたくなるんだよなぁ。 「おんぶ…は、もう面倒くせぇからこのまま抱えますよ」 「は…?ぇ、ちょっ、おい!」 問答無用で膝裏と背中に腕を回して、俺は突然会長を抱えあげた。目を白黒させている彼を無視して部屋に上がり込み、そのまま玄関を進む。 「予備のコンタクト、何処にあるんですか?」 「洗面所だが…」 「ん、了解」 手当たり次第に肘や足でドアを開け、そうして洗面所に辿り着いてから会長を下ろす。傍に置いてあったコンタクトレンズのケースを会長の手に握らせてやって、口を開いた。 「ここまで来たらもう大丈夫ですよね。じゃあ俺はこれで」 そうして横を通りすぎようと思ったら服の裾を掴まれた。

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