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第18話・三上

   今日も堀川の家族は仕事で留守にしているそうだ。  ファーストフードで昼飯食ってトイレを済ませて、今は午後一時半。歩きなれた道なのに、今日はやたらと緊張感があった。道中、いつもならくだらない会話をずっと続けているのに、今日は何を喋ったらいいのか分からないのと、逸る気持ちで言葉が出てこない。  それは堀川も同じようで、時折口を開きかけては閉じてと、金魚のようにパクパク口を動かして、いつもより早足で家に向かう。  角ばった字で堀川と刻まれた表札。  松の緑と南天の赤。  中央がすりガラスの玄関扉。  軋む廊下に飴色の急な階段。  駆け込むようにして部屋に入ってすぐ、堀川に抱き締められた。 「三上。好きだ」 「うん。俺も」 「好きだ、好きだ……マジで好き」 「俺もだよ。俺も堀川のこと、好き」  ぎゅうっと腕に力が込められた。俺も堀川の背中に手を回して抱き締め返す。  厚い胸板がドクドクと音を立てていた。 「ずっと好きだった。一年の頃、三上が助けてくれたあの日から」 「俺は入学式の日に、堀川見て一目惚れした」 「マジ!?」 「へへ、マジだよ」 「マジか……。俺、お前捨てるなんて、考えないから」 「うん……」 「俺と付き合ってくれる?」 「うん。……よろしく」 「キス、してもいい?」 「ん」  セックスは何度もした。身体のいろいろなところにキスマークをつけられた。でも、一度も唇にはキスしなかった。して、とも言えなかった。だって、あれは練習のセックスだったから。  堀川は女子が好きだって思ってたから。唇へのキスは、特別だからって。  少し屈んだ堀川と、つま先立ちした俺。  ちゅっと軽く唇を合わせると、堀川は照れくさそうに笑った。 「なんか、順番が逆だな」 「はは、そうだな」 「あーもっと前に告白しとけばよかった」 「だな。それに俺、お前に沢山嘘ついてる。ごめん」 「なに? 俺のこと好きっていうの、嘘?」 「それは本当だよ。でも、他は嘘だらけ」 「いーよ別に。俺のこと好きっていうのが嘘じゃなければ、それでいい」 「堀川……」 「三上、好きだ。本番のセックス、してもいいか? 練習じゃなくて、お前を抱きたい」  小さく頷いて、今度は俺からキスをした。  猛る股間を堀川の太ももに押し付けて、もっと、とねだるように首に腕を回してキスを深くする。  さっき食べたハンバーガーの味がするのに、なんでか甘酸っぱくて頭がクラクラした。  堀川は舌で俺の口の中を弄りながら、俺の腰を抱きかかえてベッドへと連れて行く。 「悪い……全然余裕ない……」  何度も抱かれたベッドの上。  堀川は性急に俺の服を脱がし、自分も裸になった。  毛深い胸を俺の胸に擦り付けて、貪るようなキスをしてくる。毛が乳首を撫でてくすぐったい。  好きな人とのキスって、こんなに気持ちよくて幸せなんだ。胸が切ないような、苦しいような、それでいて春の陽だまりにいるような暖かさを感じて、目頭が熱くなる。 「好き……堀川。好き」 「ああ、俺も好き」 「好き、大好きって、ずっと言いたかった……」 「俺もだよ、黎人」  舌を出して堀川に吸い付けば、絡め取られて唾液を吸われた。今度は逆に堀川の舌が俺の口腔内に入り込み、柔らかいもので上顎や頬の内側を擦られる。  ゾクゾクとした快感がせり上がり、痛いくらいに勃ち上がっている陰茎を堀川の腹に押し付けた。 「黎人の、すっげー勃ってる……今日は俺もフェラしていい?」 「え……してくれんの?」 「実はずっとしたかった」 「マジか」  堀川は俺の股間に顔を近づけ、勃起したチンポをねっとりと舐め始めた。  熱い舌が先端の割れ目を抉り、カリのくびれをくすぐって、根元までずっぽりと咥え込まれると、気持ちよさに声が我慢できなくなる。 「あ……はぁ……すげぇ……気持ちいい」  チンポに与えられる快感によって俺の股は勝手に開いていき、奥にある窄まりを弄ってほしいと腰が揺れた。それに気づいた堀川は、穴の周辺にも唾液を垂らし、指で押したり縁を引っかいたりして少しずつ解していく。  いつの間にか唾液だけでなく、ローションが追加されていて、ぐちょぐちょになって柔らかくなった後孔に指が三本入っていた。  けれど、堀川はフェラでも指でも俺をイかせるつもりはないようで、指も口も動きは緩慢だ。次第にもどかしさが募って、自ら腰を動かし始める。  もっと欲しい。堀川の熱を、もっと感じたい。 「はぁ……、あ、堀、川……」 「ん?」  分かってるくせに。  さっきは余裕がないとか言っておきながら、堀川は、なに? とでも言いたげに、チンポを咥えながら俺に余裕の視線を送った。 「もう……っ、……挿れて……ほし、ああっ!!」  ぐっと脚を持ち上げられ、上を向いた尻の穴に堀川の昂りが一気に挿入された。  奥の奥をこじ開けられ、視界に星が飛ぶ。  今日の堀川は最初から全力で腰を振ってきた。熱い肉棒は腸壁を目一杯広げて動き、前立腺をゴリゴリと押しつぶす。  遠慮の一切ない抽挿に、俺は叫ぶように喘ぎ声を上げ続けた。 「あぁっ! あ、あ、やぁっ、おなかっ、あ、あっ、こわれるっ、あ、あっ」 「あー、気持ちいい、黎人、やばい、お前の中、マジでサイコー……」  腸が破れるんじゃないかってくらいに容赦なく腰が打ち付けられ、強すぎる快感に思わず逃げ出そうとすると腰を掴まれて引き戻された。当然、ゴリラの力には敵わない。でも、勝手に身体は逃げ出そうとする。  それを何回か繰り返していたら、堀川は上体を倒して圧し掛かり、噛みつくようなキスとともに身体全体で俺の動きを封じ込めた。  野獣みたいな、激しいセックス。  文字通りガツガツと掘られ、同時に口腔内も犯されて、俺は涎を垂らしながら何度も後ろだけでイった。 「んーっ! ひゃ、め……んっ、はぁっ、あぁおかしくなっ……んんーっ!」 「すっげー締まる、ん、……ふ、乳首も一緒にイかせてやるからな?」 「やっ、ら、あっあっ!」  離した口からは唾液が糸を引き、赤い舌がそれを舐め取った。首筋と鎖骨にキスマークを残したあと、肉厚の舌はぴちゃぴちゃとわざと音を立てながら俺の乳首を責め始めた。 「ちくび、イっちゃ、あンっ、なめるの、やぁっ……!」 「黎人のエロ乳首、ぷっくりしてる……、マジで敏感、可愛い……」 「やらっ、ほんと、むりぃ……っ! ちくびっ、よわいからっ、ああぁっ……!!」  じゅっと乳輪ごと吸い付かれて、舌で突起を捏ねられた。その間も、堀川のチンポは俺のナカを暴れまわっている。  気持ちよすぎて意識が飛びそうだ。 「あーイきそ……イく、あーイく、出すぞ」 「んっ、キス、キスしてイって……んっ……んんーっ!」  熱いほとばしりが腹の奥に注がれて、俺はガクガクと腰を震わせた。伸びた爪先が幾度か跳ねる間、一旦萎えた堀川のチンポは再び復活していた。 「もっかい、いい?」  目に強い情欲の光を灯して舌舐めずりする堀川に、俺はまた恋をした。  *  散々鳴かされたあとのピロートークは、暴露大会となった。 「豆乳も納豆もあんま好きじゃねえ」 「マジ? 最近は毎日食べてたじゃん」 「……堀川が巨乳好きだって言うから、ちょっとは育つかなって」 「マジか……このエロおっぱい、俺のために……」 「冷静に考えると頭おかしいな、俺」 「俺は嬉しいけど。あ、フェラはどうだった?」 「気持ちよかった。マジで最高」 「元カノたちより?」 「あー……それも嘘。俺、童貞。フェラされたこともない」 「は、マジで?」 「女子には勃たない」 「マジ?」 「マジ」 「えー……お前の初カノ、童貞食ったとか、お前のエッチ下手糞でサイアクとか言いふらしてたじゃん」 「あれは……しようって誘われたけど、勃たないから無理って断って、あの子のプライド傷つけたからだと思う」 「マジか……」 「ごめん。ずっと童貞ネタでお前のことからかって……」 「いや、そーじゃなくって! マジなら嬉しい!」 「許してくれんの?」 「そもそも怒ってねーし。それよりか気になることが……」 「なに?」 「彼氏とか男のセフレはいなかったんだよな?」 「なんで」 「いや、ケツが……」 「処女っぽくなかった?」 「いや、いいんだよいても。全然! お前、男にもモテそうだし!」 「……アナニー歴三年だからだよ……」 「アナニー歴三年」 「リピートすんなアホ」 「エッロ……」 「想像すんなよバカ」 「じゃ、本当に俺が初めて?」 「だよ」 「マジで? 真山にもヤられてねえ?」 「あー……真山が男とヤったって話も嘘。作り話」 「マジか」 「マジ。堀川が男に、つうか俺とのエッチに興味持ってくんねーかなって思って。真山ならありそうじゃん?」 「マジで信じてた。なんだ。そっか、俺が初めてかぁ……」 「うん」 「俺が黎人の初めての男かぁ」 「……うん」 「黎人の処女、俺がもらったんだ……ふへへ」  デレデレにニヤけた堀川は、俺に何度もキスをした。  甘い雰囲気は嬉しいけど、だんだんと恥ずかしくなってきて、堀川の腕の毛を摘まんで引っ張ってやった。  痛いと喚く堀川に、うるせぇアホゴリラと返す。  そんなやり取りは今まで通りであり、けれど、今までとは確実に違う。 「黎人」 「……なんだよ堀川」 「お前も下の名前で呼べよ。恋人だろ、俺ら」 「こー……ゴリラ」 「ウホッ! ウホホッ!」 「やめろ、殴んなよ、尻に響く」 「ウホ……」 「はは、ごめんって。浩二。これからよろしくな」 「これからも、だろ? 黎人」 「ウィンクできてねーよ」 「あれ、おかしーな。これでどーだ!」 「両目つぶってんじゃん、ははっ」  腹を抱えて笑っていたら、甘ったるい微笑みを浮かべた堀川が、脚を絡めてキスを仕掛けてきた。俺は腕を堀川の背に回してそのキスを受け止める。  キスを阻む障害物はもうない。  互いに築いていたフェイクの壁はさっき壊れたから。  バイバイ、俺らの嘘つき悪友ライフ。  ハロー、俺らのラブラブ恋人ライフ。  なんてな。  End

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