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4月

とある高校の玄関口。 「やった!また一緒だ!」 「あぁ〜離れちゃった…」 そんな声が周りからたくさん聞こえてくる。 桜が舞うこの季節。一色青はぼんやりと目の前の掲示板を眺めていた。 青の視線の先には3-Aの文字。 そこからだんだんと下がっていく。 佐川…白石…進藤…鈴木、 「…瀬戸、壮士」 小さく名前をつぶやいたら、口角が上がってしまった。 それを隠すように口を手のひらで覆う。 …また、同じクラスになれた。 平静を装いながら教室までの道のりを歩く。 しかし青の頭の中は嬉しさでいっぱいだった。 なんて声をかけよう、「また同じクラスになれて良かった」…いやこれだと嬉しい感じが全面に出ちゃう…「久しぶりだね」 …いや確かに久しぶりだけど、何で今それ?ってなるよな…なんかこう…もっとナチュラルで友達っぽい… 「あーおっ!!!」 「っ!」 真剣に考え事をしてたら、いきなり背後から抱きつかれて思わずよろける。 「…っ、びっくりした、航」 「見た!?俺たちまた同じクラスだよ!!」 「…………みた」 「…おい、見てないだろ俺の名前!」 「…だって俺の名前『い』だもん。三上なんて所まで見るかよ」 「流石青ちゃんクールだねぇ…ひどいけど!!」 三上航とはこれで3年連続同じクラスになる。 瀬戸ほどではないが、青はそれも嬉しかった。 「そーいえば、隼人と壮士も同じクラスだったよ」 「…ふーん」 「4人とも同じクラスになれて良かったな!」 「うん」 階段を5階まで登る。 そしてそのフロアの突き当たりにある教室が3-Aだ。 軽快にドアを開けた三上に続いて教室へ入ると、既に半数以上の生徒がいて各々盛り上がっていた。 「あっ、青!航!」 喧騒の中、よく通る声に呼ばれて振り向くと教室の隅に見知った顔が2つあった。 ドクン、と心臓が鳴る。 全身の血が逆流したみたいに体が熱い。耳も真っ赤かもしれない。恥ずかしい。 それでも青は瀬戸から目を離すことが出来なかった。 机に気だるげに肘をつく姿。長すぎて机からはみ出てる足。 ゆるく天然パーマがかかっている焦げ茶の髪は風に揺れている。太陽の光が反射して、ヘーゼルナッツの瞳と片耳に空いたピアスがキラキラと輝いていた。 隼人の声に顔を上げた瀬戸。 ゆるりと動いた瞳が青を捉えて―――――ふ、と笑った。 やばい。撃ち抜かれた。俺の心臓。 イケメンかよ、かっこいいなくそ。 青は心の中で想いをぶちまけ、しかし表では至って冷静に進藤隼人と瀬戸壮士の元へ歩を進めていた。 席は自由らしく、青と三上は進藤と瀬戸が座っていた席の1列前にカバンを置いた。 「おはよ…青」 「…おはよ」 「また同じクラスだね、俺結構嬉しい」 「…、おれも」 瀬戸は人たらしだ。青が一生懸命考えたセリフをぶっ壊してくるような言葉を平気で吐く。 青は嬉しさを抑えるのに必死だった。 隣で三上と進藤がギャーギャー騒いでいるのと対照的に、青と瀬戸の会話は穏やかでゆったりとしている。 出会った時からそうであり、その雰囲気を2人とも好んでいた。 普段口数もなく、表情が少ない青にとって、急かさずにゆっくり話をして、聞いてくれる瀬戸は数少ない存在であった。 「…3年も、よろしく」 「うん。よろしくね」 青が勇気を振り絞って呟いた小さな言葉も、瀬戸は全部拾って笑顔で返してくれる。 それが堪らなく嬉しくて、気恥ずかしくて、青はチャイムがなったのをいい事にすぐさま自分の席に座り、ホームルームが終わるまで後ろを振り返らなかった。 もし自分にしっぽがあったのなら、今頃ゆらゆらと揺れているだろう。 担任の話を聞きながら窓の向こうの桜の木を眺める。 満開に咲き誇り、風に揺られて桜吹雪が舞っている。 風に吹かれて巻き上がった花びらが、ひらひらと青の手の中に落ちてきた。 淡いピンク色のそれに、青は思わず笑みをこぼした。

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