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So What②

「10年よ10年! 一緒に住んでて、それだけ付き合ったらもう最後の相手だと思わない?なのにアイツ浮気しやがったのよ! 問い詰めたらセックスでうやむやにするし。 で、こないだ家に帰ったらいなかったの。 突然出てったわけ。 家賃の催促が来たけど絶対払ってやんないんだから!」 「で、アンタの浮気相手が俺なワケ?」 会うなりダイニングバーに引っ張り込まれてかれこれ一時間近く経った。 ウエイターが迷惑そうにこっちを見ている。 So Whatに出てくる女みてえな愚痴を垂れ流すコイツが、ゲイバーでも無いのにこんな話をしてりゃ周りも騒つく。 今すぐテーブルの上のつまみを片付けて代わりに"ジェシカ・シンプソン"を座らせたくなるってもんだ。 ちなみに俺の向かいの席でビールを飲みながら愚痴ってるのは明るい茶髪にパーマをかけた43歳のオッサンだ。まあ、いわゆるオネエってヤツだな。 丸い眼鏡の奥の目はくるりとつぶらで、ほうれい線が目立ってきているけど笑うと愛嬌のある顔をしている。で、名前は 「ん?名前なんだっけ」 「サクラよ!」 だ、そうだ。サクラってよりその辺のぺんぺん草の方がお似合いだぞ。 「そろそろ店出ない?」 周りの視線がすごくて、ピンチョスに手が伸びずハイボールだけすすむ。舐めるように飲んでいたのに、もう底から5センチくらいになっている。 「いやね、どこ連れてこうってのよアンタ」 いや、セックスするつもりで来たんだろアンタも。ヤリ目の掲示板に書き込んでたじゃねえか。 あークソッ。 俺はハイボールを一気にあおって空にした。 本当はセックスする前にアルコールを入れたく無いんだけど、ここまで飲んだらもう変わらない。 このままじゃラチが明かないしな。 「行くぞ」 先に会計を済ませて外に出る。ちょっと、とサクラは慌てて追いかけてきた。 「ヤダもう。勝手なことして」 「そっちの勝手には付き合ってやっただろうが」 「だからってこれからホテル行くのにムードなさすぎなのよ」 あ、一応ヤル気ではいたんだな。 「じゃ行こっか」 「アンタも物好きねえ、アンタの歳からみたら私なんてオジサンでしょ?」 「セックスできりゃ誰でもいいんだよ俺は」 「まー!最っ低!」 クズよクズ、とぐちぐち言いながらもホテルまでノコノコついてきた。ムードがないのはどっちだ。 部屋に入って服を脱ぎ始めると 「ちょっとアンタ何してんの?!」 と驚かれた。 「いや、今からヤるんだろ?」 「あーもう、ほんっとうにムードのない男ね」 「いるかそれ。あ、上か下どっちにする」 「アンタって若いのに爛れまくってんのね。 ちょっとかわいくて純朴そうな顔してるのがよけいエグいわ」 そこまでか?でも確かに相手の年齢が上になるほど真面目そうとか大人しそうとか言われる事が多い気がする。 「お風呂行ってくるわ。覗くんじゃないわよ」 ふーん、ネコなんだ。じゃしばらく暇になるな。 携帯をいじってたら 「ちょっと!何寝てんのよ!」 と叩き起こされた。あれ、寝てた? やっぱりセックスの前に酒を飲むもんじゃない。 「ごめん、今日途中で動けなくなるかも」 「はあ?!何それ」 「酒飲むとすぐ眠くなるから」 「はああ?!じゃあなんで飲むのよ」 「アンタが付き合えって注文したんだろ」 やっぱり飲むんじゃなかった。 一旦寝たせいか頭が睡眠モードになってる。 「ごめん、シャワー浴びてくる」 「時間なくなっちゃうじゃない」 「眠い。目ぇ覚ましてくる」 もう、しょうがないわねっとサクラはテレビをつけた。リモコンで番組を選んでいる。 「悪い」 そう言い残して風呂場に行った。 冷たい水を浴びるといくらかスッキリした。 戻ってくると、サクラはテレビを見ずに膝を抱えてスマホを眺めていた。ラインの画面だ。目には涙を溜めている。 「カレシから?」 「何よ、ホントにデリカシーのない男ね」 サクラは眼鏡をずらして目をこすった。 「で、ホントにセックスするの」 「するわよ。私にアイツなんてもう必要ないもの」 ふぅん。まあいいけど。

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