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Wanna be ③

祐次の家は小綺麗な二階建てのアパートだった。意外といい部屋住んでるな。 畳じゃなくてフローリングの洋室だ。 入ってすぐにリビング、右手奥にコンロと流し台だけのキッチン、リビングの隣はベッド一つでいっぱいの寝室。 「すいません、狭くて・・・」 「いや、一人暮らしならこんなもんだろ」 一人暮らししたことないから知らないけど。 「お風呂入ります?」 「入る」 どうせ汗だくになるけど、身体中ベタベタで不愉快だった。交代で風呂に入った後、祐次はビールを2本出してきた。 「飲みます?」 祐次はチーズ鱈の袋を机の上に置いて、俺の隣に座った。窓を開けているのに風が通らなくて暑い。もっと離れろ。 「お酒強い方ですか」 「全然。すぐ眠くなる」 祐次はプルトップを開けると同時に吹き出した。 「意外ですね。かわいい」 全然嬉しくない。 ビールを煽った。炭酸が喉を通り過ぎて金属のスプーンを当てたような味が舌に残る。 「映画のDVDあるんですけど、見ます?」 「全部見られる自信がない」 「そんなに?」 祐次は口に手を当て笑っている。 「全然そんな風には見えないんだけどなあ」 「悪いか」 「いえ、人それぞれですから。 やっぱり、セックスばっかしててもダメですね。僕、ハジメさんの事全然知らなかったんだなあ」 首を傾げて顔を覗き込んでくる。 ほんのり目元が紅い。まだ少し湿った黒い髪からシャンプーの香りと、風呂に入ったばっかなのに汗の匂いがする。祐次の肩を掴んで、引き寄せられるように顔を近づけると 「ダメです」 手のひらで押しのけられた。 「なんでだよ」 「いや、あの、ハジメさんの顔見たら、意識しちゃって、なんか・・・緊張しちゃって」 飲み始めたばかりなのに、祐次の顔は真っ赤になっていた。散々ヤッてきたのに何言ってんだコイツ。 「それに、シたくありません。ホントに付き合うまで」 祐次は膝を抱えて顔を埋めた。俺は心底呆れた。 「いやもうお前何言ってんだマジで」 「僕なりのケジメなんですっ」 祐次は駄々っ子のように肩をいからせ顔を上げる。間髪入れずキスしてやった。そのまま床に押し倒す。テーブルの上の缶が倒れた音がしたけど知ったこっちゃない。 ほら、しっかり舌入れてんじゃねえかカマトト野郎が。そのままパーカーから覗く首筋や喉に唇を押し当てていく。裾から手を入れて胸の突起を弄ると、祐次の喉が笛のようにヒュッと鳴った。反対側を舌で味わうと、今度は喘ぎが漏れる。服をめくりあげてヤツのイイところを触ってやる。 ふと顔を離すと、祐次は泣きそうな顔をしていた。 「祐次」 祐次はビクっと身体を震わせた。 「ダメだった?」 「ずるい・・・」 祐次はますます情けない顔をした。 「こんなにしておいて、ズルイです」 熱っぽい息を吐きながら、首に腕を回してきた。 「・・・今日だけですからね」 俺は答えずに、そのまま祐次の服を脱がせていった。 朝目覚めると、腕の中に温かい感触があった。またカホが潜り込んできたか? もぞもぞし始めたから寝かしつける時みたいに背中をぽんぽんと叩く。それでも動いてたから、髪を梳いていく。早く寝ろ。ん?あれ、こんな癖っ毛だったっけ。 目を開けると、祐次が真っ赤な顔をしていた。あ、そうだった。泊まったんだった。 「反則です・・・」 「なにが?」 「不意打ちです・・・」 祐次は顔を隠すようにうつ伏せになる。何言ってんだコイツ。 「あ、ダメです。手、離さないでください」 起き上がって勝手に洗面所に向かう俺に、ヒヨコみてえについてくる。ウザい奴。 朝飯を食べたら、駅まで一緒に歩いた。 俺はバイトで、祐次は仕事。なんとか就職先が決まったようだ。スーツがまだ馴染んでいないけど。 「また連絡しますね。ハジメさんもいつでも連絡くださいね」 祐次はちょっと寂しそうに、一足先に電車に乗っていった。 なんだか疲れた。誰かとずっといると気が抜けない。やっぱり俺にはその場限りの関係の方が向いているのかも知れない。見飽きたユウジとカホの顔が少しばかり懐かしくなった。 電車に揺られながら、馬鹿みたいに明るいスパイスガールズのデビュー曲を聴く。 ーーーーIf you wanna be my lover, 《私の恋人になりたいなら》 you have got to give. 《あなたは捧げなくちゃ》 Taking is too easy , 《貰うだけなら簡単よ》 ーーーーSlam your body down and wind it all around 《身体を張って頑張って》 ーーーーI wanna really really really wanna zig-a-zig ah 《貴方がソレをしたいならね》 なんだか頭が痛くなってきた。 すぐにTracを変えてしまった。

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