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Wanna be②

次の日から、祐次から朝晩ラインが来るようになった。おはようございます、とか、おやすみなさい、とか内容のないやつが。 1週間も続くともう通知を伝える音さえ耳障りで、用があるときだけにしろ、と送ったら、数日連絡が途絶えた。 かと思ったら、週末に電話が来た。 カホの歯の仕上げ磨きをユウジに押し付けてそれに出る。 『あ、もしもし、鈴・・・じゃなかった。 ハジメさん』 「何?」 『今度、ライブ行きません?音楽好きでしたよね』 「行く。誰のライブ?」 『あ、アーティストのライブじゃなくて、ライブハウスでやる・・・』 「ああ、対バン?ワンマン?」 『ホント詳しいですね。ワンマンですよ』 時間と場所を聞いて、電話を切ろうとすると 『あの、終わったら、僕ん家に来ませんか?』 「悪いけど、ホテル以外でセックスしないようにしてるから」 『付き合ってるんだからいいじゃないですか』 ああ、そういう体だった。 「わかった」 『・・・泊まれます?』 「いいよ」 祐次ん家でヤれればいいか。 スピーカーの向こうで嬉しそうに息を吸う音が聞こえた。 『楽しみにしてますね!』 弾む祐次の声に、何故だかしっくりこない感じがした。祐次との感情の噛み合わなさがなんとも気持ち悪かった。 「誰?」 洗面所からカホとユウジが出てきた。 「んー・・・、カレシ?」 「ハア!?」 ユウジの顎が落ちた。でもカホが不思議そうにユウジを見つめているのに気づいて、そそくさと寝室に引っ込んで行った。 中々いいリアクションだったな。頬が上がる。 やっぱり、ちょっとは楽しめそうだ。 ライブは小さなハコで行われた。 ユウジに申告してみると、訝しげな、何か言いたげな顔をしてて面白かった。 ライブハウスの中は人でごった返して、配管が張り巡らされた天井から太陽のようにライトが照りつけている。冷房がついているはずなのにかなり暑い。 祐次の額にはすでに汗が滲んでいる。 祐次は俺の顔を見ると、少し顔を赤くして俯いた。 「なんだよ」 「なんか、照れちゃって」 なんだそりゃ。顔どころか裸もアソコも見てきたくせに。 ライブはそこそこだった。 男性ボーカルのカラッとした歌声が軽快なドラムで縁取られ、澄んだシンセサイザーの音が夏の日差しを思わせる。悪くないけどちょっと暑苦しい。 ユウジがいたバンドとどうしても比べてしまう。正確無比なベースに緊張の糸を張り巡らせるようなドラム、その上を自由に跳ねまわるギター。ユウジの歌声は青い空を横切る飛行機のようにまっすぐで、客の心を遠くまで連れて行った。 俺もたまにキーボードで助っ人に入ったけど、ついて行けずにツェルニーやブルグミュラーからピアノを練習し直した。ユウジとバンドやりたかったから。 バンドは飛ぶ鳥を落とす勢いだったが、ユウジにはカホが出来るし、ドラムは親の店を継ぐことになったし、ベースも普通に就職した事で自然消滅してしまった。ホントにもったいない。 ライブが終わると祐次の家に向かった。 いつも待ち合わせしていた駅から一駅離れただけなのに、閑散とした住宅街が広がっている。 「手、繋いでもいいですか」 返事しないで祐次の手を取った。減るもんじゃないし。祐次はビックリしたように俺の顔を見た後、デレデレと笑み崩した。 「調子に乗るな。近寄るな。暑い」 ただでさえ梅雨の蒸し暑い空気がまとわりついてくる。祐次は俺の言うことにハイ、ハイ、と締まりのない顔で相槌を打った。

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