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Trac07 Wanna be/スパイス・ガールズ①
『ーーーーあなたが私の恋人になりたいなら』
スパイス・ガールズ/Wanna be
「こんな時にアレですけど、ちょっと話があるんです」
「ああ?早くしろ」
ホテルのベッドに組み伏せられた祐次は、俺を見上げながら言った。本当にタイミング悪いな。せめて終わってからにしろ。
「あの、ちょっと待って・・・」
構わず服をめくって腹やら胸やらにキスをしていく俺から身をよじって逃げようとする。
「いいから早くしろよ」
「言わせる気ないでしょ・・・んっ」
唇を重ねて言葉を封じる。
セックスが終わってからいくらでも聞いてやるよ。
ったく、いい加減口開けろ。
「ああもう!」
祐次は俺を押しのけて、今度は俺をベッドに張り付けた。じっと俺の顔を見ながら、手首を押さえつける。
大きい瞳が揺れている。
「鈴木さん」
祐次の肩は強張っていて、目には薄く水が張って、それが今にも零れ落ちそうだ。
でも、落ちてきたのは祐次の身体だった。
のしかかる祐次の胸が膨らんで溜息が吐き出される。
「やっぱり・・・終わってからにします」
そう言って、祐次は獣のように俺の唇を貪った。
シャワーを浴びて、服を着て、さあ帰ろうかと言う時に、祐次はセックスする前と同じように話があると切り出した。ベッドに腰掛ける俺の前に座る。なぜか正座で。それから俺の目を見て言った。
「僕と、付き合ってください」
ん?
え、コイツ今なんて言った?
「だから、僕と・・・えっと、僕の、恋人に・・・」
祐次の顔は真っ赤になって、最後の方の言葉は消えていく。
「なんで?」
「なんでって」
祐次の声がひっくり返る。
「だってさ、やる事変わんないじゃん。
会って、メシ食うだか遊ぶだかして、セックスして」
「そ、そういう事じゃなくて・・・」
祐次は顔を真っ赤にしたまま泣きそうになっている。
「す、好きなんですっ」
「どこが?」
「えっ?!・・・えっと、初めて会った時も、ちょっとタイプだなって思ったし、口悪いけど、悪い人じゃないし、思ったより優しいとこあってギャップが・・・」
すいませんもう勘弁してください、と祐二はボソボソ言い、亀みてえに床に伏せた。
「それ好きになる要素ある?」
「だって・・・す、鈴木さんは誰か好きになった事ないんですか」
「さあ」
えっ、と祐次は顔を上げる。
ユウジの顔もよぎったけど、アイツはノンケだしな。
「セフレならいた事あるけど、付き合ったヤツはいねえな」
そう、体の相性が良くてしょっちゅう会うようになったヤツはいたけど、セックスに飽きたら自然消滅ってパターンだった。
「じゃ、じゃあ、」
祐次はまた俺の目を見て
「恋人っぽい事、してみませんか」
「なにそれ」
「試しに、付き合ってみませんか」
「だからそれ今までと」
「いいから!」
でかい声だすなよ。ちょっとビックリした。
「お願い、します・・・」
祐次の目に涙が溜まっていく。
泣くなよ。めんどくせえ。後もう正座やめろ。
「大体お前それで一回失敗してんじゃん」
祐次は一瞬言葉を詰まらせた。
「でも・・・前は女の子だったし・・・」
あークソッ。しつこいヤツだな。
「わかった。試しに、な」
どうせやる事変わらないんだし。
「ホントですか?!」
祐次はパッと顔を上げて、俺に飛びついた。抱きついたまま俺の耳元で言う。
「よかったぁ・・・」
祐次の声はまだ震えていた。
「他の人と浮気しないでくださいね。付き合うんですからね」
「え、セックスしたらダメ?」
お試し期間なのに?
「当たり前じゃないですか。アプリもダメですからね」
「やっぱ辞め」
「ダメです。我慢してください」
「マジで?」
この時点でもううんざりだった。
「鈴木さん、下の名前教えて下さい」
「肇」
「ハジメさん、しばらくは僕のですからね」
耳元で響く声はどこか恍惚としていて、俺を抱きしめる腕に力が入った。
ラインIDを交換すると
「本名じゃなかったんですか?!」
と驚かれた。呆れたヤツだ。
こうしてくだらねえ恋人ごっこが始まった。
安心しろ、長くはならない。三か月も持たなかったよ。
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