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Where Can I Go Without You③
シャワーを浴びたのに、まだ頭の中がボーッとしている。セックスした後ってより、マッサージ的な気持ち良さが残ってるような。会話は噛み合わなったけど身体の相性はよかったみたいだ。
ウォークマンのスイッチをカチカチと無造作に入れる。聞いていたジャズの続きが流れる。
ーーーーTried seeing Singapore
《シンガポールも試してみたけど》
But that would'nt do
《ダメだった》
Went to vienna,But I found you ther,too
《ウィーンに行っても君を探してしまう》
Even Switzerland,your memory came through
《スイスでさえも君を思い出してしまうよ》
Where can I go without you?
《君無しでいったい何処へ行けと言うの?》
ーーーーI wanted travel,I wanted romance,
《旅したくてロマンスを求めて》
I chased that rainbow across the sea.
《海を渡る虹を追いかけた》
I'm tired of faces and quaint old praces
《人の顔や古い土地にはウンザリしている》
If you can't be there with me.
《君が一緒にいてくれないのなら》
後ろで物音がして、振り向くとギョッとした。
ケントが、呆けた顔でボロボロ涙を流していたからだ。ヤツは袖でゴシゴシ目元を擦ると、
「いい曲だね」
と笑みを浮かべた。
あ、しまった。スピーカーになっている。思いっきり部屋に音楽が流れてた。
「なんていう曲?」
俺はウォークマンの画面を確認した。
"Where Can I Go Without You "
画面を覗き込むケントにも見せる。
少し赤くなった目元を緩めて
「そっか。ありがとう、ボクの旅の友にするよ」
ケントは最後に、涙の味のするキスを落とした。
帰ったらユウジが起きていて、ギターを鳴らしていた。
「おかえり」
背中越しに言った。今日のリクエストはU2のStayだ。
ーーーーAnd if you look,you look through me.
《そして君が僕を見ても、君は僕を見ることはない》
And when you talk,you talk at me.
《そして君が話す時、その相手は僕じゃない》
And when I touchyou,you don't feel a thing.
《そして僕が君に触れても、君は何も感じない》
ーーーーFaraway,so close・・・
《とても遠くて、とても近い》
アイツは何があったとか言わなかったし、俺も聞かなかった。でも、文字通り世界中を廻っても追いかけている誰かはまだ見つかっていないらしい。
ケントが涙したあの曲は、傷心旅行の曲だ。恋を失った主人公が世界中の国を巡る。そして、どの国に行っても、失った誰かの面影を探してしまうのだ。
こっちはこんなに近くにいるのにな。
それで手も足も出ないときている。
ーーーーStay・・・,and the day would keep ist trust.
《ここにいて、そうすれば大丈夫》
Stay・・・,and the night would be enough
《ここにいて、僕がいれば、今夜だけは安心さ》
ユウジは腹が立つくらい楽しそうにしてやがる。
まあ今はこれだけでいいか。
こんな表情を見せるのは音楽をやっている時だけだし、見られるのは俺だけだ。
この時間は、一緒に音楽を奏でる間だけは、ユウジを自分だけのものにできている気がする。
アイツも俺も、音楽があればしばらくは安泰だろう。
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