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Wanna be ⑤

祐次はライブハウスの外を、遭難者のようにふらふらと歩いていた。 「祐次」 祐次はピタリと歩みを止める。 ユウジ、と小さく口の中で反芻した後、振り向きもしないでヤツは言った。 「誰ですかそれ」 力無い口調だったのにぐさりと突き刺さる。 隠しているつもりなんてなかった。話す必要がないと思っていただけだ。ユウジと暮らしていることは、俺にとっては当たり前の日常だったから。 「僕、本気だったんです」 祐次はこちらを見ようともしない。 「でも、やっぱり僕だけそうだったんですね。温度差すごいし、ハジメさん全然変わらないし。 ・・・ずっと、不安だった」 何をどうしたらいいか全然わからなくて、祐次の話を聞くことしかできなかった。 祐次は俺に向き直って、Tシャツの裾を少し引いて、こつんと額を肩に当ててきた。 「僕の事、好きですか?」 何も言えなかった。 抱きしめ返しても嘘をついてしまう気がして、俺の両腕はぶら下がったままだ。 「祐次、」 祐次は少しだけ顔を上げた。 「前には、戻れないか」 「それって・・・セックスだけって事ですか」 「まあ・・・」 祐次は両手で俺の胸ぐらを掴んだ。首が閉まるほど強い力で。 「・・・ふざけんなよ・・・!」 火を吐くように唸る祐次の目は、赤いネオンの光を取り込み燃えているようだった。 「ホント、ハジメさんてセックスしかしてこなかったんですね・・・! 人の気持ちなんて、全然・・・!」 叫び出すのを堪えるように、祐次の声は震えている。 「・・・そんなの、もう無理に決まってるじゃないですか」 そう吐き捨てて乱暴に俺を振り解き、もう何も言わずに歩いて行ってしまった。 違う。セックスだけ出来ればいいとか、そういうつもりで言ったんじゃない。 それなりに楽しかったんだ、祐次といるのは。友達といるみたいで。 繋ぎ止めるには、どうしたらいいか分からなかったんだ。 その答えはいまだに出てこなくて、俺は突っ立ったまんま、祐次の背中を黙って見送った。 うちに帰ると、リビングは空っぽだった。いつもユウジがスマホをいじるかギターを触ってるのに。 寝室を覗くとユウジはカホの隣で添い寝してて、でも俺の顔を見ると顔をしかめた。理由はすぐ分かった。 「ハジメちゃんおかえり!」 うとうとしていたカホがパッチリ目を開けた。布団から起きて小走りでこっちに来て、足にしがみつく。 「あーあ、お前が寝かせとけよ。カホ、ハジメと一緒に寝るか?」 「うん!」 カホは満面の笑みで頷いた。 「じゃ、後は頼んだ」 ユウジは伸びをしながらリビングに出ていった。まあ仕方ないか。カホと布団に横になる。背中をトントンと叩いている間、カホはじっと俺の顔を見つめていた。 「オイ早く寝ろ」 「・・・ハジメちゃん、ニコってして」 「ああ?」 カホはわざわざにーっと笑って見せてきた。 「元気でるよ、ニコってして」 正直面食らった。どんな顔をしてたんだろ俺。 もう一度、カホはにーっと笑う。なんか釣られて笑えてきた。 「こうか?」 と笑って見せてやった。 「うん!カホね、ハジメちゃんだぁいすき!」 そう言って、ギュッと抱きついてきた。 参った。俺は4歳児以下か。 「わかったわかった。早く寝ろ」 半ば負け惜しみのようにそう言って、抱きついたままのカホの背中を叩いて寝かしつける。気づいたら風呂にも入らず朝まで一緒に寝ていた。 祐次から連絡はなかった。 というか、ラインはブロックされてるし、アプリからプロフも消えていた。 ここまでするか? でも、祐次とはただそれだけの繋がりだったってことか。大体、ヤツの苗字すら知らない。 それなのに、なんかとんでもない事をしたんじゃないかって気がしてならなかった。 もしかしたら、アイツは、最初にセックスさえしてなければ、いい友達になれたかも知れなかったのに。 色んな奴がすぐセックスするのが勿体ない、って言って、飯を食いに行ったり遊びに行ったりしたことはたまにあった。それなりに楽しかったけど、いつもセックスする時間の方がもったいないって思ってた。 でも、やっと、そいつらが言っていた事が少し分かった気がする。

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