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第6話

-vlam-  姉さんはやっぱり綺麗で自慢の姉だった。タコ足配線の延長コードを2つに折ってお義兄さんの首を締めていた。窒息すると勃起するって本当みたいだ。違うだろ?姉さんみたいな綺麗で暴力なんて知らなそうな清純な美女に首絞められてるからだよ。お義兄さんはもう泡吹いてて見てらんない。でもやっぱり人の首を絞める姉さんは素敵で真正面から見てみたかった。姉さんに首を絞められたい。可愛く呼ばれながら、首絞められて泣かれたい。泣かせたくないからまだ生きてたいのに気持ち良すぎてまだ絞めてて欲しいって。勃つ。お義兄さんも?お義兄さんも姉さんに首絞められて悦んでる。姉さんを穢らわしい目で見やがって!許せなくなっておれもベッドに駆け寄ってお義兄さんの首に減り込むコードに指を入れた。お義兄さんの首を引っ掻いてしまう。薄い皮が鱗みたいになっちゃった。姉さんはぼろぼろ泣いて手を離して、ちょっとおれが思ってた以上にヤバいんだなって思った。お義兄さんの首に痕は付いてるけどそんな濃くはなくて、マジの殺意じゃないんだなって感じだったけどもしかして窒息プレイだった?姉さんはぼろぼろだ。それでも綺麗だからまた勃つ。おれだって姉さんにしばかれたかったし首絞められたかった。 「お弁当買ってきたよ、姉さん」  姉さんはしくしく泣いて、お義兄さんははぁはぁ息しながら姉さんのこと見てた。変な目で見るなよ。おれはお義兄さんの視界を全部おれで塞いだ。 「飯ですよ、お義兄さん。シャケ弁です」  近くにあったティッシュでお義兄さんの口の周りの泡を拭いた。ベッドの傍にティッシュあんのヤだな。お義兄さんもシコってのかな、そんなことしなそうな顔して。姉さんいるのに?は?姉さんいるのにシコるとかなんなん。いや、姉さんはパコったりなんかしないんだよ。いや、夫婦だぞ?するだろ。だめだ、ハルカがおれを論破しようとする。いや、姉さん花粉症だしダニアレルギーあるからワンチャン普通に鼻()む用ってことあるぞ。 「ごめんなさい、あなた。今日はご飯作れなくて」  姉さんはまだひっくひっくしながら鼻を啜って少し不貞腐れたように嗄れた声で言った。お義兄さんのシコり用ティッシュかも知れないやつ姉さんに使わせんのヤだけどそれしかないから箱ごと近くに置いた。今度から姉さんのためにローションティッシュ持ち歩こ。 「ほのか…」  お義兄さんはおれを擦り抜けて姉さんに抱き付く。なんなんマジで。さすさす姉さんのこと触ってる。抑えろ、夫婦なんだよ。夫婦、夫婦。おれだって生まれてから姉さんが結婚するまでずっとやってもらってただろ。いっぱい、ずっと、たっくさん、やってもらったもん。 「飯!」  収集つかなくなって姉さんだけでも下に連れて行きたかったけどお義兄さんも1人にしておけないんだっけか。うさぎみたいに。1人にしたら首吊って死んじゃうから。うさぎは首吊らないでしょ、知らんけど。 「姉さん、ご飯だよ。ちくわの磯辺揚げ好きだったよね?幕内弁当買ってきたよ。カツ丼もあるし、空揚げ弁当も…ちゃんと肉食べないとだめだね」  姉さんがお義兄さんを剥がして、ありがとう、と言って下に行った。お義兄さんはまだベッドの上に座ったまま。ちんこ勃起したままで立てない?姉さんのことべたべた触ってさ。勃った?姉さんで勃ったんだよね?姉さんは夫がインポで悲しんでるんだから。お義兄さんがレイプされてケツ穴(ズボ)られて。 「お義兄さん」  ちゃんと治さないと。夫がインポじゃ、姉さんが恥ずかしい思いするんだから。おれが鍛えてあげなきゃ。お義兄さんのちんこはまだ勃起してた。絶対姉さんのこと抱いてたからだ。抱いてたってなんかヤだな。抱擁(ハグ)してたからだ。 「よ、せ……」 「ちゃんと抜けるんですか。おれお義兄さんのこと監視しなきゃなんですよ。どうせなのでここで抜いてください」 「ふざけ…っるな、」  顔を真っ赤にしてちんこ押さえて、スカート捲られた女みたい。姉さんがそんなことされたら相手ボコるけど。 「お義兄さんが首括ろううとするからいけないんです。姉さんを悲しませないでください」  お義兄さんはなんかいきなり震えだして耳を塞いだ。そのうちなんかモーター音みたいなの聞こえるな、って思ったらお義兄さんが小さく呻いてた。歯がガチガチ鳴ってる。この人そういえば壊れちゃってるんだった。レイプされて?男なのに?ケツ掘られて?だから平日の昼間から毎日家にいんの?本当にレイプなの?男なのに?壊れちゃった? 「ほのか……は、何も、なかった……のか……?」 「貧血でちょっと寝てましたけど」 「許…してくれ…!許してくれ……許してくれ!許して……」  卒倒したみたいにいきなり頭をベッドに打ち付けて本当に気が狂ったんじゃないかと思って一瞬マジでビビって寒気したし震えた。土下座されんのも初めてだけどまさかのベッドの上。沈んでてダンゴムシごっこにしか見えなかった。 「なんなんですか」 「ほのかを売ったのは俺なんだ…俺なんだ!俺なんだ…俺が、ほのか、ぁあぁ…」  お義兄さんは顔を上げない。姉さんを売ったとか言う。じゃあ何、姉さんの身にも何かあったっていうのかよ。あ…ヤバいやつだこれ。頭ん中がピカってしてお義兄さんの胸倉掴んで、これはハルカ帰っててよかったなって思った半分、ハルカが居てくれたらなって。この人はおれのじゃなくて姉さんのだからダメだよ、って中途半端な右手は握り込めないしでも止めることもできなくて掌がばちんって鳴った。ベッドが大きく揺れておれもベッドに両手を付いた。 「すまない…」 「謝って済むわけねぇだろ!」  思ったより怒鳴ってた。おれの中のハルカはやっぱり怒ってない。姉さんのことなんだぞ、なんでなんだ。お義兄さんはまだおれに土下座しようとしてくる。サルボボ?赤べこ?あれだ、起き上がり小法師(こぼし)かよ。許せるわけないだろ、そんな宇宙一安い土下座で。いや、宇宙一ったって国外に多分土下座なんて文化ない。あんのか?爪先から冷たくなってくる。冷たくなるのはいつだって足から。冬の夜は姉さんの布団に潜り込んで足をあっためてもらった。姉さんも冷え性なのに。むしろおれがあっためてた。それがおれの仕事みたいに思ってた。ハルカも来て、楽しかった。この人が全部持っていった。姉さんだってケッコンテキレーキだってハルカは言ったけどハルカだってイヤだっただろ。 「別れろ」 「許して、く、れ……」 「姉さんの旦那の資格ないよ、あんた」  この人なら姉さんを幸せにしてくれる、守ってくれると思ってた。別にこのご時世、戦時中ってわけでもないし悪い奴らに狙われてるって設定なんかないから守る必要なんかない。ただお腹空かない、寒くない生活、住む場所がなくならないってそんな程度でも、姉さんが結婚するなら、離れて暮らすなら、もう月島の家族(ひと)じゃないなら心配になる。でもこの人ならって。お袋も親父も、この人なら大丈夫だって言ってた。それが実際は売ったってなんだよ。平日も朝から晩までずっとパジャマでベッドの上でさ。日用品で死のうとするしさ。ちんこは使えないってなんなんだよ。売ったってなんだよ。売ったってなんだよ、売ったって。何を売ったんだよ。姉さんのプロマイド?おれが買うよ、そんなん。  寝室のドアが開いて後ろからミャーなんとかさんが絡んでくる。そんな仲良かったっけ? 「どうしたのさ」 「ひでぇ裏切りだ!」  おれは叫んだ。そうしたら何に怒ってるのかも分からなくなった。それよりもただ姉さんが可哀想で苦しくなった。姉さんの傍に居たい。苦しい。不安だ。つらいよ。おれは姉さんのいるリビングに行った。キッチンチェアに座ってる。 「姉さん」  後ろから抱き付く。姉さんの匂いがする。姉さん、実家帰ろうよ。おれもアパート引き払う。それでまたお袋と親父とおばあと暮らそうよ。ハルカはどうするか知らないけど。あと3代目ナントカって猫と。ぶんたんちゃんだか、はっさくちゃんだったか。 「ごめんね、取り乱して」  おれは首を振った。姉さんは何も悪くない。何も悪くない。姉さんのすることは全部正しい。絶対正義。完全に正論。 「晴火くんはどれ食べるの?温めるね。お味噌汁のインスタントもあるから、それもいただきましょう」  なんかもう全部吹っ切れた顔してキッチンテーブルに並んでる弁当箱を眺めていた。 「姉さんが先に選んでよ」  姉さんが微笑む。綺麗で見惚れた。おれは姉さんが食べないやつ食べる。姉さんが食べたいやつ食べてほしい。 「じゃあ、鯖の味噌煮のお弁当にしようかしら」  先に食べちゃおうか、って言ってくれてすごく嬉しかった。久々に2人きりでご飯を食べる。姉さんと食べられるならスーパーの値引き弁当でもインスタント味噌汁だろうと何だっておれは嬉しい。ご馳走。また一緒に暮らそうよ。でももうおれは大人で可愛くない。サイズ感も性格も。顔はそのままハルカだからカッコイイしカワイイよ。ハルカも居たらもっと贅沢。姉さんはカツ丼も温めて、シャケ弁が温め終わると食べてる途中なのにサバの味噌煮弁当に蓋をして、「ごめんね」って言ってシャケ弁を持って2階に行ってしまった。それで多分、ミャーなんとかさんが戻ってくるんだ。 -blaze-  姉貴も晴火も姉貴の旦那の間男も甘い。縛って動けなくさせておけば大体死なないってことに気付かない。マジで死ぬ気なら舌でも噛んでマジで死んじまうんだから、マジで生かしておきたいなら多少痛い目遭ってもらっとけよ。生きるより痛くないだろ、死なれるよかつらくないだろ、死にたいほど追い詰められてる人間に生きてくれっていうんなら変わらないだろ。  タバコを吸って寝室の窓に吹きかける。隣の家もそれなりにシャレてる。この窓から飛び降りられないことはない。ローンどうなんの、この人逝っちまったら。姉貴?なんでこんな重荷になるもの買うかね。タバコ吸わない、酒飲まない、ギャンブルしない。堅実なこって。こつこつローン払うためだけの働きアリだよ、義兄さん。働きアリはメスか。ただ孕ませるためのオスにもなれないんじゃ、やっぱり稼ぐだけのメスだよ、義兄さんは。売春斡旋みたいな言い方だな。 「…っぅぐぐ、」  縛られた義兄さんは綺麗だった。家買ってローン払ってあとはガキでも作る気だった?理想の人生だな。晴火の居場所がまた無くなっちまう。ガキなんて作らせるもんか。姉貴には永遠の赤ちゃんがもういるんだよ。 「ぁひ、…っほむ、ら…!く、」  ケツに極太バイブ咥えて、直腸ごと出ちまわないようにガムテープで塞いだ。面倒臭いので毛も剃っちまった。見られて感じて勃起しちまって、晴火が心配する必要ないな、ちんぽは活きてるよ。ただシコってイくよりケツ穴が悦いだけで。あへあへ鳴きはじめて突然黙ったと思えば唇を引き結んでいた。頑張るよね。ケツが悦いんです、そういう生き方なんです、性で人生を謳歌したいんです、でいいだろ。この人の高いプライドがそれを許さない?エロいことは禁忌だって教わって育ったクチか?可哀想だし興奮するじゃん。開き直っちまえよ。搾り取って搾り取って挑んだこと後悔させてやれよ。生きづらいよな。見殺してやるか?ふと自殺した中学時代のクラスメイトを思い出す。やつは2日前、帰り道にある川を見ていた。病気の金魚を逃がしたとか言ってた。外来種云々なんざオレにはどうでもいいことで、金魚は元は鮒を赤く塗ったもんなんだからまぁ、川でも生きていけんじゃねって思ったのは覚えてる。あれって赤く塗ってんじゃないんだってな。それが最期。別に川に落ちて死んだんじゃないけどな。最期くらい川でも見せてやるか?ドブ川みたいな川が近くにあった。実家の川なら翡翠(カワセミ)がいたのにこっからじゃ遠いんだよな。 「散歩行きません?」  虚ろな目がオレをみて腰がガクガク震えている。イきそう?緩んだケツでも満足にイけんの? 「舌噛まないでくださいね」  引き結んでも長くは続かない口の中に指を突っ込んだ。ぬとぬとしてて感じまくった女のアソコみたい。ベロいじくって楽しかった。首にあるボールペンの丸い痕に、この人本当に死ぬ気あんのかなって思った。でもあれか、別に自殺するやつも被虐(マゾ)拗らせてするわけじゃない。首吊りオナニー好きはマジでいるみたいだが。殺してやろうか。ケツ穴責められながら逝っちまえよ。歯に舌を押し当ててやる。力任せに。痛いだろ。姉貴のことどうでもいいんなら、もう守るものが手前のプライドくらいしかないんなら、やっと義兄さんには自殺の権利ってやつが付与されるわけだ。なんかそんな小説前に読んだな。義兄さんが上の歯がオレの指を刺す。どっちなんだよ?もし、肯定(うん)なんて言ってみろよ。姉貴がどうでもいいってことか?晴火から姉貴を奪っておいて?オレの姉貴がどうでもいいってどういうことだよ。アンタは晴火から姉貴を奪ったんだ、生地獄(アネキ)を選ぶ義務がある。  義兄さんはぶるぶる震えてオレの指に響くくらい悲鳴を上げた。窓開けっ放しなんだよな。ベッドはぎしぎしいってる。オレの指の分開いちゃってる口からだらだらヨダレが垂れる。もう義兄さんはオレたちの輪の中にいる。晴火の(あこがれ)で姉貴の王子様(オモチャ)。オレの何?オレの何かじゃなくていい。晴火と姉貴とオレの世界に踏み込んできたんだから。オレから義兄さんに踏み込むのもアリだろ。  義兄さんの姿を見た時からもう育つ一方のちんぽを義兄さんの下のおクチに咥えさせる。義兄さんの中に進む。腰を抱いて上から打ち付けて揺さぶる。まだ壊れてないずっと奥をがつがつ突くと義兄さんはアヘ顔晒して喘ぐ。似合わないけど、ヤバいくらいのヤってやった感に襲われていきなりイった。義兄さんのケツまんこがオレを膣痙攣しながら包んだ。義兄さんの肉にオレの指が減り込む。オレの姉貴を奪るからだ。晴火の姉貴を奪るからだ。あんたの所為だ。オレの生臭いザーメンで中を汚して、マーキングしてもまだ勃ってる。あんたが悪い。  ケータイが鳴るまでずっとヤってた。枯れそうになるまで。義兄さんは白目剥いてびくんびくんしてた。みっともない義兄さんの姿にまた元気になる。ずっと鳴ってるケータイに手を伸ばす。あひあひ言ってる義兄さんの口を塞ぐ。指が口の中に引き摺りこまれた。 「はい、もしもし」  男、しかも姉貴の乱れまくった旦那を縛って犯すっていうのは習慣(ルーチン)に組み込まれてないからか、誰から掛かってきたのかなんて確認も忘れていた。電話(ケータイ)会社のキャンペーンの押し売りだったら切るか、ってところで相手は母さんだった。 -ėrable-  さよなら、姉ちゃん。母ちゃんと父ちゃんは泣いてる。ぼくは焼き場、今風に言うと火葬場の機械の中に棺が呑まれいくところを見てた。次出てくる時はもう姉ちゃんの姿はないんだよな。知ってるよ、昔親戚の葬式でみたんだから。あとは焼かれて遺骨と灰になる。死んだら終わり。終わりだよ。それがハッピーエンド以外の何なのさ。姉ちゃんはもう姉ちゃんがいじめてた人から恨まれたって関係ない。姉ちゃんがいじめてた人に殺されたんだから。殺されたら、もうどんなきっかけがあったってぼくは恨めるよ。やっと整理がついた。姉ちゃんがいじめてた人の家族は姉ちゃんを恨んで、ぼくは姉ちゃんを殺したその人を恨む。分かり合えない。分かり合えるはずなんてない。姉ちゃんは姉ちゃんがいじめてた人の学生時代を、姉ちゃんにいじめられてた人は姉ちゃんの未来を奪ったんだから。でもなんで全然関係ないぼくたち家族がこんな思いしなきゃいけないのさ。姉ちゃんの好き()だって大事な時間が無駄になっちゃって悪かったなって思う。でも本音は姉ちゃんと一緒だった時間が無駄だなんて思って欲しくない。結婚だとか夫婦だとかそんなの法律(カタチ)として残しとくだけなんだから、法的関係(カタチ)にならなくたって…  墓の穴に埋められていくぼくが姉ちゃんだと思い込んでた骨をみるのも嫌でとっとと帰ることにした。人間の中身なんてあんなもので、ホントは肉と水の中にちんちん突っ込んでキモチヨクなってたんだな。それでも気持ちいい。雪也さんとするのは特に。だって喋るから。撫でてくれるから。呼んでくれるから。笑ってくれるから。ただの容れ物でも。まだ信じちゃいないんだよな、あの遺骨の正体が姉ちゃんだなんて。今まで一緒に暮らしてた姉ちゃんが骨だったなんて。それできっとぼくもただの骨だってことに気付きたくない。骨じゃない。ぼくは生きてる。ぼくの中身はちゃんとぼく。雪也さんに会いたくなった。ぼくは生きてる。ぼくの中身はただの骨なんかじゃない。ぼくにはちゃんと中身がある。   雪也さんのおうちには誰もいなかった。雪也さんのお嫁さんも双子くんたちも。3人の誰かの靴もない。だから焦って、ベッドの部屋に走った。雪也さんは青褪めた顔して怖がって逃げようとしたけどぼくだと気付くと少しずつ近付いてきてくれた。 「雪也さん」  雪也さんの手がぼくの目元を触った。柔らかい。あったかい。少しだけ汗かいてる。怖い夢みたのかな。ぼくがいきなり来てびっくりしちゃった? 「何か……あったのか…?」  少し嗄れた声で雪也が訊いた。言いたくない。首を振った。大きなあったかい手がぼくの頭を撫でてくれる。 「何もないよ」  手を繋いだらちょっとエッチなあったかさで雪也さんの目を見たらすぐ逸らされちゃって、でも指はぼくをギュって握ってくれる。したい時の熱だ。多分する。雪也さん次第で。でもきっと雪也さんからは言えないんだろうな。ぼくからいっていいのかな。きちんと言葉にしないとダメな気がして。まだ雪也さんはぼくを見つめて、焦らしたいわけじゃないけど先走っていいのかな、って。 「ごめんな……力に、なれなくて…」 「雪也さん!何言ってんの。ぼくは雪也さんと会えるだけで…十分力になってくれてるよ」  ぽすぽす頭叩かれる。指がまたギュってした。したい。雪也さんと気持ちよくなりたい。ぼくの中身は骨じゃないって知りたい。ちゃんとぼくは生きてる。姉ちゃんだって生きてた。怖いな。ぼくが骨だけになってる時にぼくはもう何も考えちゃいないんだから。それがひとつの慰めみたいなものだったりして。  雪也さんに抱き締められて背中を叩かれる。落ち着くな。大好きだな。雪也さんのお嫁さんに悪いなって思ってるのに好きだなって気持ちでいっぱいいっぱい。ぼくが女の人だったらサイテーなことしてるのに、ぼくが男だから許されてる気になる。指がギュってなってちんちんがどくどく熱くなった。早く雪也さんとひとつになりたくて、でももう少し雪也さんと見つめ合ってもじもじしてるのもくらくらしてすごく好き。ホテルだと雪也さんがシャワーを浴びて、ぼくがシャワーを浴びて、初めての時は髪まで洗っちゃって、ぼくが乾かしたんだ。それでお互いバスローブでぼくの前に座って、少し照れながらぼくの指を触ってくれる。いつもはそれが合図だった。ただのセックスするだけの関係にキスはまずいかなって思ってたのに段々どっちが自分のカラダなのかどこまでか自分なのか分からないくらいにまでぐずぐずに溶けちゃって、いつの間にかキスしてた。すごく気持ちよくて止まらなかった。雪也さんにはお嫁さんがいてぼくはただのセフレに過ぎないってことは分かってる。分かってるけど止まらなかった。雪也さんのお嫁さんのことも大好きなのに。雪也さんに口付ける。唇がすぐ溶ける。そのうち押し倒しちゃって指がギュッ、ギュッってなってエッチだった。でも手でももっと繋がりたくて、もっと触りたくて、小さな動きも見逃せなくて握り直す。 「んんっ…ふ、ぁ…」  口の中あったかくて、甘かった。もっとしたい。もっと深く繋がりたくなる。舌がくるくるして絡まってくらくらする。雪也さんの手が緩んでまた力が入った。楽にして欲しくてもう少し速く舌を動かす。掻き回して、弱く囓った。ぬるぬるする。胸の辺りが熱くなってちょっと苦しいのに全然イヤじゃない。 「く、んん…ぁ、あ…ッ」  雪也さんの匂いがする。好き。離れたくない。暑くなって汗ばんでいく。 「んぁ、」 「ふ、んん…」  雪也さんとのキスは何度しても飽きない。大好きってだけじゃない欲深い感情がバレちゃいそうで怖い。ぼくは雪也さんのペットなのに。雪也さんのお嫁さんのことも大好きなのに。  雪也さんが小さくぶるってして首がもっとベッドに埋まった。涙ぐんでる目がぼくを見る。したい。したいけど。すればいいじゃん、セフレのペットに過ぎないんだから。手を繋ぐのがぼくからじゃどうしても離せなくてぼくも雪也さんの手をギュッてした。気持ちに浮かされて口が滑りかける。でもスマヒョが鳴っちゃって、父ちゃんからだった。戻ってくるように電話が来て、夢みたいな時間が終わりを告げる。ぼくは骨で、雪也さんとどれだけエッチしても離れ離れになって、灰になる。雪也さんが心配そうにぼくを見る。顔に出てたかな。 「やっぱり…何か、あったんだな?」  目のところ触られて、ぼくはこんな幸せなことってないなって思った。雪也さんはセフレとかいたことないんだろうし、きっとこういうセックスはぼくが初めてで、セフレの接し方とか知らないんだろうな。だからただのセフレペットのぼくにも真面目に向き合っちゃって。ぼくはそれを都合のいいふうに解釈する。 「何も…」  何もないよ、って言おうとしたら雪也さんの手が離れて、また髪を撫でてくれた。 「きちんと……向き合ったほうが、いい…な?後悔して欲しくない…」  ひとつひとつ言い聞かせるみたいに頭を撫でてくれる。また現実に戻らなきゃならなくなる。遺骨とか念仏とか葬式とかもうこれから姉ちゃんのいない未来とかが一気に目の前にくる。 「俺が言うのも……おかしな話だが…」  耳の裏を撫でてもらう。それがすごく気持ち良かった。目の前に雪也さんが近付く。すごくかっこいい。 「深秋なら……出来るだろう?」  雪也さんはぼくの前髪を整えた。雪也さんが言うと本当に力になる気がした。後ろめたいことも気が重くなることも全部終わってから、それからまた雪也さんとふわふわしたい。 「ありがと、雪也さん。元気もらった……行ってくる!」 -vlam-  姉さんが事故った。姉さんが事故った。姉さんが事故った。おれの姉さんが事故った。何も考えられなくなった。目の前が真っ暗だ。明日からどうやって生きていけばいいの。姉さんがいないのになんで地球は回ってるの?なんで地割れが起きて津波がきて隕石が降って大火事にならないの?なんで世界が終わらないの?姉さんが事故ったのに。ハルカから連絡きてよく覚えてない。世界を壊す魔人になりそうで待ってられなくてハルカに連れられてあの人のところに押し込まれた。留守番でもしてろって言ってハルカはまた帰っちゃう。ハルカは悲しくないの?リビングに座って姉さんが事故っちゃうこの世界がさっさとぶっ壊れてみんな死なないかなってずっと考えたら、全部あの人が悪いことに気付いちゃっておれは2階に行った。あの人は何も知らないの?呑気に寝てた。姉さんが事故ったのに!この人がしっかりしないからだ。この人がしっかりしないから姉さんが思い詰めて、ふらふらして事故ったんだ。この人のせいだ。この人がちゃんと旦那しないから姉さんが事故った!生あったかい首を締める。汗まみれ。何の夢みてんの?姉さん捨てて、色んな男とパコる夢みてんの? 「許さないからな…!許さないからな!」  全体重で喉仏を沈める。(うがい)みたいなひどい声がした。エロ男はおれの手を剥がそうとする。 「姉さんを返せよ!返せよ…返せ!」  爪が刺さった。顔が真っ赤で、惨めだ。全部惨めだ、この人の人生は。全部全部この時のために積み上げた積み木。浜辺に作ったクオリティの高い砂の城。全部全部、難関(イイ)大学も一流(イイ)会社も育ちの良さも全部全部、この惨めさのためだ!惨めだ!全部惨めだ。ケツぶっ壊してココロぶっ壊して嫁さん捨ててオトコとパコって、恥ずかしさの塊だ。 「ぁぐ……く、ぅ…」  姉さんを不幸にする!どうして気付かなかった?絵本の世界から出てきた王子様みたいな胡散臭い男に!惨めを晒すためだけに生まれたこんな男に! 「あぐぐ……ぅぐ、ぐ、」  姉さんを事故らせたのはこの男だ。姉さんがいない人生ならおれがこの人を道連れにする。でも地獄からこの人が、姉さんを、連れて行っちゃう?純粋な姉さんがこの人に誘われていっちゃう…?あの世のおれのことを心配して姉さんが…!地割れも津波も隕石も大火事もやだ!やだやだやだ絶対起きないで。いずれにせよ、おれとこの人が地獄に逝っても姉さんは天国に逝くっていうのに、心配して地獄に来ちゃうじゃないか! 「ぉご、こ……くぅぅ…」  この人の目がおれを見る。濡れておれを見上げて、ハルカのこと見てる?ハルカは優しくしてくれるもんな。首吊り止めてくれたんだもんな?ハルカが生かしたんだ?そうだよな、ハルカのオナホが無くなっちゃう。殺さないほうがいい。おれが逮捕されたらハルカにだって迷惑がかかる。目覚めない姉さんが呼ばれちゃう。手を放す。この人はおれの手を強く掴んでた。息切れしてる姿がハルカに抱き付いてるところと重なった。姉さんと結婚した男があんあん言ってAVみたいに。別の息切れが混じって、おれの息だった。 「ハルカのオナホのくせに」  潤んだ目がおれを見上げる。また首を絞めてやりたくなった。姉さんが目覚める気がした。この人が代わってくれたらいいのに。 「ほのかは…俺と、…別れたがっているのか…?」  この人は意地悪く笑った。目が白く光って、ぼろって涙が落ちていった。綺麗だった。頭の中が真っ白くなった。 「あんたはどうなんだよ」 「俺は、別れたくない…」  そりゃそうだろうな。変態隠したいなら姉さんと仮面夫婦って便利だよ。しかもおれは姉さんの弟なんだから。どうしても別れたくないっておれの腕を掴んで、みっともない。

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