15 / 21
14『1と3分の2』
明けない夜は無いと云うが、夜を夜のままで。冬を冬のままで終わらせる方法が、ある。
「彼」もその一人であった。
うつ病と同性愛をカミングアウトして入社した社員がいる、と聞いたとき、俺は内心「いちいち言わなきゃいいのに」と思った。うつ病は障害者雇用があるからまだ分かるが、なにも同性愛者です、などと。うちはLGBTフレンドリー企業ではない。
だがヒアリングのため「彼」に電話をし、連絡先を交換してから、カミングアウトの理由が分かった。
「彼」は、あまりに素直すぎ、優しすぎる人間だった。
隠し事が出来ない。嘘がつけない。僅かな淀みも無い清らかな水のようだった。言いたくないことは言わなくて良い、と伝えても、「耐えられないんです」と電話の向こうで泣いていた。
だがいくら清らかさを保とうと、水は、たった一滴の悪意で濁る。
「『彼』はここにはいません。プライドパレードで会おう、そう約束した冬の夜に、天国へ行きました。明けない夜は無い、It Gets Betterと言いますが……そう出来なかった人がいることも、どうか……どうか、覚えておいて、くださ、い」
協賛企業代表
株式会社○○ 人事部 ××
ともだちにシェアしよう!