そしてそれとは別に、俺はもう一つ報酬を申し出た。 　それは現金ではなく、場所の提供。 　飛び込みセールスで「春を売る」んじゃあまりにも危なっかしくて、放っておくのが心配になったからお客が自分から来てくれる場所を用意した。 　端的に言えばそれは、俺が働いているバーの片隅。 　ゲイバーに来る奴なんてみんななにかしら抱えていて、思った通り心に雪が降りまくってる奴が多かった。ほとんどの奴が吹雪だったと言ってもいいくらい。だから晴はそんな奴らの相談に乗って客に春を売っている。 　名前はそのまんま「晴れ屋」だ。 　占いみたいなノリで、しかもあっという間に心が晴れるから、見る見るうちに人気になり人が押し寄せるようになった。そのついでにバーにも客が増えて、まさにいいこと尽くめ。 　なにより。 「星哉さん」 　常連さんに作ってもらった看板をぱったりと倒して立ち上がるのは終わりの合図。まだバー自体は閉店ではないけれど、人が途切れたタイミングで俺を呼んだのは、若く可愛い俺の恋人。 　今まで決まった相手はいらないと思っていたけれど、顔がタイプで体の相性も良く、なにより俺が晴を離したくなくて繋ぎとめた。ありがたいことに晴も俺を最初から気に入ってくれていたようで、あっさりと付き合うことになった。そのうち一緒に住む予定。 　ちなみに毎晩のように抱き合うようになったおかげで、「後ろのお姉さん」にも喜ばれている。 「ん、そろそろ店じまいか？」 「いっぱい吹雪いてる人見て寒くなっちゃったんですけど」 　わかりやすく自らの両腕をさすって俺を見る晴。重い相談が立て続けにきて、すっかりと冷えてしまったらしい。もちろんそれは温かいものを食べに行こうという誘いではなく。 「お姉さんも疲れたって」 　なにを欲しているのか、遠回しでありながらわかりやすい要求は、可愛い以外のなにものでもない。 「しょうがない。それじゃあたっぷり栄養補給しないとな」 　花魁さんが頑張ってくれないと通訳ができないし、そのためにはパワーの補給も重要だ。なにより可愛い恋人にこんな風に求められたら応えないのは男じゃない。 「ってことで俺先上がるんで、後はよろしく」 　名目だけ店長にそう断って、俺たちはさっさとバーを後にした。 　今日の晴れ屋は営業終了。 　これからはプライベートのぽかぽか春タイムなんでまた明日、お越しください。