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第八章・19

「駿、どうした?」 「ご、ごめんなさい」  離れた駿を見て、伊織は驚いた。  駿は眼を、真っ赤に泣きはらしているのだ。 「いろいろ考えてたら、涙が止まらなくなっちゃって。それで」  いいことを教えてやろう、と伊織は微笑んだ。 「お昼がまだだな。食事を摂ろう、駿。そうすれば、思い悩むことなどなくなるよ」  さあ、と重箱を開く伊織。  食べさせてくれ、と唇を突き出す。 「はい」  箸をとる駿に、首を振る。 「以前もやったな、こんなこと」  そうして伊織は、駿の口にピクルスを咥えさせた。 「……」  口移しで、互いに料理を食べた。 「伊織さま」 「何だい?」  おいしい、とようやく笑顔になった駿に、伊織も笑った。

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