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第76話

 *** 「ん……うぅっ」  体中のあちこちが痛い。特に、下肢は鉛のように重く、後孔は熱を持ち、切れてしまったみたいに痛んだ。 「ここ……どこ?」  何とか瞼を開いた暁は、視線をゆっくり動かしてみる。と、自分が豪華なベッドの上にいることがすぐに理解できた。 (そうだ、俺、唯の別荘に来たんだ)  閉じられている天蓋の布は、ベルベットのような光沢があり、それだけで……自分の住んでいる世界とは違う事が分かる。 「んっ……くぅっ」  重たい体を無理矢理起こし、シルクのシーツを体に巻き付け、這うようにしてベッドの端まで移動した暁が布を開くと、その先には、これまで一度も目にした事がないような、気品のある煌びやかな光景が広がっていた。 「……凄い」  感嘆の声を思わず漏らすが、それに答える声は無い。  暫し黙って眺めていたが、意を決したように暁は絨毯へと足を降ろし、ゆっくりと立ち上がってからソロソロと歩きだす。  体中が悲鳴を上げている理由はきちんと分かっているが、考えるのが怖かったから、敢えて思考を持っていかないようにした。  中世ヨーロッパを思わせるアンティークな家具の向こう、バルコニーへと出られそうな大きな窓が目に入る。 「く……うぅ」  痛みをこらえて一歩ずつ、転ばないように近づいてから、ノブを掴み、そっと力を加えて右へと回転させれば、鍵は掛けられていなかったようで、簡単に開くことが出来た。  指一本動かすのでさえ辛いような状況の中、どうしてこんな行動に出たかといえば動揺していたからだが、暁自身、今の時点でそこまで深くは考えられない。 「わぁ……」  バルコニーへと踏み出せば、とても真夏とは思えないような凛とした空気に包まれた。  半円形をした空間には、椅子とテーブルが設置されていて、その向こう側、手すりの奥にはキラキラと光る水面(みなも)が見える。    まるで吸い寄せられたみたいに手すりへ近づき見渡せば、大きな池とそれを囲むように咲く花々が瞳に映った。

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