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第151話
「逃げようなんて……思ってない」
「じゃあ、どうしてあんなこと、言ったの?」
「それは……ぅっ!」
肩口に軽く犬歯を立てられ、痛みと驚きに体が跳ねた。
「気付いてない? 暁はさぁ、俺が触 ると怯えるんだ。最初の内は受け入れてたのに、そのうち、キスしても震えるようになった」
「そんな……ことは……」
無いはずだ……と、言い返したいが呂律がうまく回らない。
「ほら、じかに触ると苦しくなるだろ? 工藤に言われたから、一度は普通の生活に戻したけど……叶多が触っても平気なのに、どうして俺だけ拒絶するの?」
「……とうちょ……しないって」
「盗聴はしてない。だけど、見ないとは言ってない」
言っている事が滅茶苦茶だ。
暁はそう思うけれども、反論すら出来ないくらいに唯人の顔が近かった。
確かに……事件の後、仕置きと称して唯人に折檻されて以降、キスは何回かしてくれたけれど、それもそのうちにパタリと無くなり、触 れても貰えなくなった。
だから、唯人は自分に飽きたのだろうと思い込み、それならば、出て行こうと決意したのだ。
(俺の、せい?)
「暁が出て行くって言うなら、好きにさせようって思ってた。でも、この前……暁からキスしてきたから、考えが変わった」
「……起きて……た?」
答えの代わりとでもいうように、彼は唇で額へと触れ、暁が体を強ばらせれば、困ったように眉根を寄せる。
「いくら考えても分からない。暁は俺が好きなのに、なんでこんなに怯えるのか」
「それは……」
こうして会話を交わす間も、胸が苦しくてたまらない。だけど、暁が理由を見つけなければ、唯人は納得しないだろう。
だから、必死に思考を巡らせるけれど、答えは形にならなくて……溢れそうな涙を堪え、暁が視線を逸らそうとすると、顎を取られてそれは阻止され、今度は頬へと唇が触れた。
「逃げるなんて許さない。暁は、俺の事だけ考えて、俺の為にだけいればいい」
独占欲を剥き出しにした恋人のような発言に、戸惑いながらも暁の心臓はその鼓動を一気に速める。
「今から抱く。抵抗しても、泣いても止めない」
まるで、独白のように言葉を紡ぐ唯人の顔は無表情だが、整い過ぎたその容貌に、魅入られたように動けなくなった。
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