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第150話

 ようやく状況を理解した暁が、どういう事かと尋ねたら……急に暴れて倒れたのだと側にいた唯人に説明されたが、コーヒーを飲んだ記憶までしか暁の頭には残っていない。  それから……多分、二日ほどが経過してしまっている。  全ての窓に取り付けられた黒いカーテンは光を通さず、今が何時かは分からないけれど、食事を採った回数や、睡眠などから推測できた。  こんなおかしな情況の中、どう過ごしているかといえば……起きている時はいつものように他愛のない会話を交わし、甲斐甲斐しいと思えるくらい、彼に世話を焼かれている。  一人にされる時間もあるが、そんな時には好きな作家の本を傍らに置いてくれた。  2人でいても、唯人がパソコンをしている時は、本を読んで過ごしている。 「……大学、行かないと、あと、バイトも……」  これまで、優しいけれど有無を言わせぬ彼の雰囲気に飲まれていたが、流石にこれはまずいと思い、勇気を出して告げてみた。  すると、思いも寄らない返答が、唯人の口から返ってくる。 「それは心配しなくていい、もう少しすれば連れて行くよ。あと、バイトは辞めるって連絡しといた」 「え? なんで……」 「もう必要ないから。叶多と暁が接触したら、面白いかもって思ったけど……そうでもなかった」  事も無げに告げられた言葉に、暁の顔から血の気が引いた。  やはり、自分は小泉と繋がるための、ただの駒でしかなかったのだ。予想はしていた事だったけれど、本人から直に言わると、思っていたよりショックが大きい。 「なに……それ。俺、バイトしないと……大学続けられないから、勝手に辞めるとか……そういうの、困る」  感情を隠そうとしても声が微かに震えてしまうが、それでも暁は懸命に……取り(つくろ)って言葉を紡いだ。 「そんなことは心配しなくていい。バイトなんかしなくても、俺がちゃんと面倒みるから。あんなことがあって、暁はだいぶ不安定になってる。突発的に何をするか分からないって工藤も言ってた。だから……ちょっと不自由だと思うけど、繋がせてもらったんだ」 「そこまで……してもらう理由が無い。それに、俺はもう……大丈夫だから」 「大丈夫じゃない。だって暁、俺から逃げようとしただろ?」  傍にいるって言ったのに……と、囁くように告げながら、体を覆うシーツを取り去った彼は薄く笑みを浮かべ、咄嗟に後ずさった暁を、いとも容易くベッドの上へと押し倒す。

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