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第178話
いじらしいその発言に……再び挑みたい衝動に強く駆られるけれど、そこは暁の身体を気遣い奥歯を噛み締めぐっと堪えた。
「……そう」
何度も頷く暁の姿に心臓の音が煩 くなる。
淡々と返事をしたのは、自分の真意を読まれたことが急に照れくさくなったから。
無理矢理とはいえ唯人以外の男の手管に乱れたことを、心の底から暁が恥じ、その記憶に苦しめられているのは以前から知っていた。
だから、できるだけ思い出させないよう、ここ数ヶ月は優しく抱いてきたけれど、それでも夜毎 うなされる姿にやるせなさは募る一方で……。
ならばいっそ、さらに強い愉悦と刺激を注げばいいと考えたのは、我ながら短絡的だと認めざるをえないけれど、目隠しをすることで、過去の記憶と唯人を混同するようであれば、すぐに止めようと思っていた。
いわば一種の賭だったのだが、どうやら成功したらしい。
頬へと触れてきた暁が、
「ありがとう」
などと囁くから、それだけで……唯人の胸は温かいものに満たされた。
過去の自分が見ていたら、
「馬鹿みたいだ」
と笑うだろうが、これが恋だというのなら、馬鹿も悪くないと思える。
「ありがとう……は、こっちの台詞だ」
告げながらそっと目隠しを外し、その瞼へとキスをする。と、僅かに睫毛を揺らした暁が、眩しそうに瞳を細め、それからこちらを真っ直ぐ見上げて嬉しそうに微笑んだ。
***
『今、暁を抱いているのは誰?』
囁かれたその言葉で、暁は唯人の想いを知った。
事件があってからというものの、相手が唯人と分かっていても、ふとした瞬間苦い記憶が蘇り、どうしても体が強ばった。
それについて唯人が何かを言うことは無かったけれど、今日は様子が違っていて――。
最初はかなり戸惑ったけれど、目隠しをされた闇の中、唯人の気配や感触だけを夢中で求めつづけるうち、今の自分がどこにいるかをはっきりと暁は自覚した。
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