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第179話

「やっと……顔、見れた」  瞳に映る端正な顔は、頬が少しだけ色づいて……まるで彫刻のようだと思った出会いの頃より、だいぶ人間らしく見える。 「唯、俺は……」 「ん、なに?」 「唯が……好きだ。唯が俺を好きだって言った時、そんな筈ないと思ったし、道具でもいいって思った。だけど、今は……」  促すように髪を梳かれて暁は必死に言葉を紡ぐが、途中から声が詰まってしまう。気づけば視界は涙で歪み、それを聞いている彼の表情がどんなものかも見えなくなった。 「唯を……信じる」  意を決して、想いを告げる。  本当は……その言葉を口にするのが怖かった。  マイノリティだと自覚してから、好きな相手と恋人同士になれるだなんて、ありえない事と諦めていたから、思いもよらない彼の告白をすぐには受け入れられないくらい臆病になってしまっていた。 「それ、ホント?」  少し掠れた唯人の声に、暁が小さく頷き返せば、すぐに体を抱き起こされて強い力で抱きしめられる。 「あっ」  急に体がフワリと浮いて、暁が驚きに声を上げると、 「冷たくなってる。風邪でも引いたら大変だ」 との声が聞こえ、横抱きのまま湯船の中へと連れ込まれた。 「暖まったら、ベッドで抱くから」 「え? ……でも」 「ダメ?」  萎えたペニスの先端を飾るピアスを指で弄びながら、唯人は暁の頬へキスをして甘えたように尋ねてくる。  彼の願いを聞かないなんて選択肢など暁には無いから、 「ダメじゃない」 と、返事をすると、耳朶に軽く歯を立てられた。 「んっ」  それだけで、悦ぶように体が震え口からは吐息が漏れてしまう。 「……ホント、暁は俺が好きだな」  言われ慣れた言葉だけれど、いつもとは違い、確かめるような響きをそこから感じるのは、暁の思い上がりだろうか? 「そんなの……前から知ってるだろ」  答えながら笑みを浮かべ、唯人の髪へと指で触れる。  すると、涙の幕の向こう側で……彼が微笑む気配がした。 「俺も、暁が好きだよ」 おとがいを軽く掴んだ指で、顔を上向きに固定され、キスをされると思った暁は、瞼を閉じてじっと待つ。  すると、「かわいいな」と低い声音が耳に心地よく滑り込み、乾ききった暁の唇を潤すように舌で舐めたあと、みっちり隙間を埋めるように吐息を深く塞がれた。

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