1 / 16
第1話 天使とモブ
アニメや漫画で注目されるのは大抵が主人公。次いで友人やライバル、悪役等の個性が強いキャラクターも人気だ。
現実世界も似たようなもので、顔が良い、頭が良い、運動神経が良い、人当たりが良い、面白い等、タイプは色々だが個性のある人や気受けの良い人が持て囃される。
残念ながら、俺はその中のどれにも当てはまらない。見た目が残念な上に中身も地味、印象に残らないばかりか名前すら覚えてもらえない、その他大勢。いわゆる、モブキャラってやつだ。
自分の立ち位置に不満はない。ひっそりと目立たず生きるのも悪くない。寧ろ、人に注目されるのが苦手なタイプ。誰かに好かれたい、必要とされたいなんて思った事もなかった。彼の存在が俺の心を捉えてしまうまでは……
※※※
小学生生活最後の年の暮れ、大掃除の手伝いを終えた俺はリビングのソファーで録画したアニメをだらだらしながら観ている。正に至福の時間。
「まーくん」
「んーー?」
顔を覗き込んでくる母さんの笑顔に嫌な予感しかしない。
「お醤油きれちゃったから買ってきてくれる?」
予感的中。
「寒いからヤダよ」
「お釣りでまー君の好きなお菓子を買っても良いわよ」
「百円まで?」
「三百円まで。余ったらお小遣いにして」
「行くっ!!」
百円以上のお菓子を買えるなんて滅多に無い機会だ。二つ返事で了承し家を出た俺だったが、すぐに後悔する事となる。
店のシャッターに定休日変更の張り紙、母さんは知ってて買い物を頼んだに違いない。商店街までは遠いし寒いし面倒だ。このまま帰ってしまおうか……
迷った挙句、三百円の誘惑には勝てず隣町へと足を向ける。
数十分後、目当ての菓子を買えて上機嫌になった俺は、自分でも単純なヤツだと思う。
付属のトレーディングカードのキャラが気になり買い物袋の中を覗き込む。菓子箱を取り出しては袋に戻す。同じ動作を何度か繰り返して止めた。ここで開けてしまうのは勿体ない気がしたからだ。
守護天使が欲しいけれど、ホログラムのカードは当たった試しがない。
期待半分諦め半分で家へと向かう。北の方角から師走にふさわしい冷たい風が吹き、ウールニットの糸の隙間を潜り抜け肌に触れた。身体がぶるりと震え、コートを着て来なかった事を悔やんだ。風邪を引いてしまう前に早く帰ろう。
川べりの土手を歩いていると、少し下がった場所にある空き地で、男の子達が楽しそうにサッカーをしているのが見えて足を止めた。同じ歳ぐらいだけど知らない顔ばかりだ。
「こんな真冬に寒くないのかなぁ」
アニメを観たり絵を描いたり、部屋で静かな時間を過ごすのが好きな俺にとって、真冬の寒空の下で遊ぶという選択肢は端からない。とは言え、和気あいあいとした雰囲気を羨ましく思う時もある。俺には、友達と呼べる程親しい人がいないから。
不意に視線を感じ、ゴールポストの方へと目を向けた。脇に立っている男の子が俺を見つめているのに気付き、戸惑う。
距離があるから顔は良く分からないが、知り合いなのだろうか?
今度は手招きをしている。自分の鼻を指指すと、彼がこくりと頷いた。俺を呼んでいるらしい。
彼に吸い寄せられるように、足を一歩前へと踏み出した途端、湿った雑草に足を取られ派手に転倒しまった。
皆の視線が俺に集中しているのを肌で感じる。恥ずかしくて頷く事しか出来ない。
「大丈夫?」
頭上から耳心地の良い声が聞こえ、顔を上げた。
「……守護天使」
ともだちにシェアしよう!