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第2話 勇気を出してみようか?

「守護天使?」 一瞬、彼が現実の世界に舞い降りてきたのかと思ったけれど、違った。目の前にいるのは三次元の男の子だ。 「守護天使って何?」 もう一度訊ねられて返事に困る。首を傾げている君の顔が、俺の大好きなキャラクターにそっくりで思わず見蕩れてしまいました。とは、言えないよな。間違いなく変な奴だと思われてしまう。 「な、なんでもないよ。ただの独り言。滑って転んだだけだから大丈夫」 「そう? それなら良いけど、立てる?」 「うん」 平静を装い立ち上がろうとしたが、左足首に痛みが走り思わず顔が歪む。 「捻っちゃったみたいだね。ちょっと待ってて」  軽やかに走って行く彼の後ろ姿をぼんやりと眺めていると、エナメル生地のスポーツバッグを手に提げて俺の元に戻って来た。  流行りに疎い俺でも知ってるぐらいの有名ブランドのロゴが付いている。本物を目にしたのは初めて。  父さんが自分のお古のバッグに油性ペンでロゴを描いて得意気にプレゼントしてくれた、なんちゃってとはえらい違いだ。 「足を前に出して、テープを巻くから」 「そ、そこまでしなくても良いよ。時間が経てば痛みは引くと思うし」  思わず声が裏返ってしまった。尻込みしている俺に剛を煮やしたのか、彼がふくらはぎを強引に掴み、裾をぐいと捲る。 「すぐに終わるから、じっとしてて」 「……はい」  彼の指が素足に触れた瞬間、痛みではなく甘く痺れるような不可思議な感覚を覚えた。頬が熱い。 「はいっ、出来た。立ってみて」 動揺に気付かれないよう、無理に口端を上げた。 「足踏みしてみて」 彼に促されるままに、足裏で地面を軽くノックしてみる。  痛くない……  もしかしたら、彼は守護天使じゃなくて魔術師なのかも知れない。さっき感じた甘い痺れは痛みを和らげる為の魔法だったりして。 また馬鹿な想像をしてしまった。アニメのキャラクターとすぐに結びつけようとしてしまう。 「どう? 痛くない?」 「うん」 「良かったぁ。でも、あくまでも応急処置だから、痛みが続くようなら病院に行った方が良いよ」 彼の笑顔に俺の心臓がどくんっと跳ねる。 君の名前は?  また会えるかな? 俺と友達になってくれる?  普段の俺だったら絶対に言わないような台詞を口にしてみたくなった。望んでいない返事が返ってきたらと思うと怖い。でも、このままさよならしてしまったら後悔しそうだ。  勇気を出してみようか? 「あの……」 「何年生?」 「六年生」 「同級生かぁ、でも会った事がないね。どこ小?」 「高井小。君はどこの小学校?」 「俺は……」 「ふぇっくしゅぃ!!」 「ちょっ、大丈夫?」 「大丈……ぶぃっくしゅっ!!」 Vネックで首回りがスースーしてるとはいえ、長袖ニットにデニムパンツ姿の俺が半袖にハーフパンツ姿の彼の前で盛大にくしゃみをしてしまうなんて、有り得ないし、情けないことこの上ない。 実際に口に出してもいないのに、心の中で一気に喋ったら疲れた。どれだけヘタレなんだよ、俺。 「チーンして」 「へっ?」 「鼻水垂れちゃうから、チーンして」  ティッシュで鼻を覆われ、条件反射で噛んでしまった。彼の指先には俺の鼻水が…… 情けないのを通り越して自分で自分を呪ってやりたい。

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