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第3話 兆候。

ついさっきまで膨らんでいた勇気が、空気を抜いた風船みたいにしゅるしゅると萎んでいく。 「君の名前、教えてくれる?」 「へっ?」 「それ口癖? 面白いね」 「面白い?」 「んーー、面白いとはちょっと違うかも。興味深いの方がピンとくるかな。俺の周りにはいないタイプ」 興味深い……か。そんな事、初めて言われた。自分で言うのもなんだけど、格好悪いし個性ゼロだし、彼みたいなイケメン男子に興味を持ってもらえるような人間じゃない。 「確かに、君の周りには俺みたいなタイプはいないだろうね」 「うん、君に見つめられるとドキドキするんだ。不思議でしょ?」 「……もしかして、心臓が跳ねるみたいに?」 「そう、どうして分かったの?」 だって、俺も君と同じように感じているから。今なら言えそうだ。もう一度だけ、勇気を出してみようか? 「あのさ、俺と友……」  彼の真後ろに知らない奴が立っているのに気付き、言葉が途切れた。 「優磨、休憩終わりだってさ」 「わざわざ呼びに来なくても良いのに、もう少ししたら行くよ」 優磨君か。名前まで格好良いな。 「そいつ誰? 見ない顔だな」 「翔平には関係ないよ」 「は? 何だよそれ?」  優磨君に軽くあしらわれて不機嫌になった翔平君とやらが、俺をジロリと睨んでくる。敵意剥き出しの彼の瞳に復活しそうになっていた俺の勇気が一気にぺしゃんこだ。 「直ぐに行くから、先に練習始めてて」 「早く来いよ」  翔平君の手の平が優磨君の頬に触れた。彼の肩がぴくりと揺れる。  自分の手を振り払う事なくそのままにしている優磨君に満足したのか、こいつは自分のものだと言わんばかりの自慢気な笑顔を俺に見せて仲間の元へと戻って行った。 翔平君に横柄な態度をとられても不快な気持ちにはならなかった。彼の視線なんて眼中にないぐらい優磨君の表情に夢中になっている自分がいたから。

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