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第23話
うつむく雪華の顎を掴んで顔を上げた。綺麗なブルーの瞳が陰っている。そんなことまったく気にしなくていいのに。命の恩人に感謝することはあっても、憎むことなどない。
今なら迷いなく生きることを選ぶ。雪華と一緒にいたいから。
「あなたと一緒に生きていけるなら、人間に戻れなくていいんです。あなたに精を分けることが出来るなら人間の部分もあって良かったって思っていたけど、違うならもういい。ずっと気になっていました。あなたと俺とじゃ生きる長さが違うんじゃないかって。でもこれで大丈夫ですよね。もっとこの先も一緒に生きていけるってことですよね」
人間になんて戻れなくてよかった。どっちみち長い年月が経っている。大切な人たちを置いてきてしまったけれど今更もうどうしようもないのだ。俺はあの時仲間たちと山で死んだ。みんなと一緒に人生を終えたのだ。
今いる晃成という生き物は雪の王の眷属、雪男の晃成だ。
「よかった、あなたのそばにまだいることが出来る」
晃成の言葉に雪華は瞬きを繰り返し「いろよ」と囁いた。
「ずっとこれからも、隣にいろよ」
自然に唇が寄せ合った。細はいつの間にかいなくなっている。
二人きりで暮らしてきたあの家のようで違う楽園がここにはある。また一緒に作り上げていけばいいのだ。
「愛しています。雪華さん」
ちゃんと言葉に出して伝えてこなかった。今なら言える。迷いもなく。
「俺も……愛しているよ、晃成」
ふわりと微笑んで、雪華は胸の中に飛び込んできた。しなやかで愛おしい体を抱きしめる。互いの鼓動が伝わりあって同じリズムを奏でている。たった一人の人。
強く力を入れた瞬間、激痛が走った。
「ってええええ」
また塞がっていない刺された部分が激しく痛み、晃成は身もだえた。うっすらと血がにじみ出てきている。
「ヤバイです。傷口が開いたかも……」
まだ回復の途中の身体では無理ができない。そう思い知らされた晃成は腹を抱えたままうずくまる。せっかく甘い雰囲気だったのに。
雪華は呆れたようにそれを見て「まじかー」とがっかりと肩を落とした。
「まあ、治った暁には朝まで楽しもうぜ」
呼び戻された細は仕える王の節操もない発言に、眉を吊り上げた。
「いちゃつくのが終わってから呼んでいただけませんか」
「あ、ごめんな。こいつの面倒頼むわ」
王らしく厳かな雰囲気を作るのをやめたそうな雪華は軽い口調でそういうとさっさとベッドを降りていく。すかさずあの部屋から持参したコタツの中に入り込んだ。ほうっと満足げなため息が届く。
窓の外は再びの雪景色。
「そろそろミカンがなくなりそうだから買っておいてな」
わがまま放題の王に雷が落ちるのは数秒後。
コタツでくつろく王様とギリギリと怒りを爆発させかけた使いの者。そして傷の痛みに悶える恋人と。
雪の王国は今日も平和です。
fin
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