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それだけでええ
たくさん言いたいことがあるのに、喉に詰まって出てこないから俯いた僕。
その代わりに目頭が熱くなって、ポロポロと涙が零れていく。
テーブルに敷かれたマットをグシャと握っても、感情が収まらなかったんだ。
「そんなん、関係ないやろ」
吐き捨てるように言っているのに、僕は引き寄せられて顔を上げた。
「お前が今、存在している……それだけでええ」
真っ直ぐな瞳と落ち着いた声で僕に語りかけたトトはゴクゴクとコップの中身を飲む。
何気なく言ったけど、僕はその言葉に救われた。
「あら、私と一緒じゃないの」
後ろに温もりを感じた瞬間にぐらんぐらんと頭を揺らされる僕。
「ここは三種の性も種族も関係ないのよ……男か女かも障害の有無もね」
微笑んだ顔は初めて出会った時のようちゃんの笑顔によく似ていて、思わず見惚れる。
「もう、かわい〜い〜♪」
今度はガシガシと雑に頭を撫でられるから、視界がぐるぐるし始めた。
カッコいいトトと力が強いカカ……やっぱり面白い方達だ。
「Ωといえば、千佳 もやし夜彦もやな」
夜彦に白い布で口を拭いてもらいながらトトはポツンと言う。
口の回りに赤いものをつけ、ボーっとしているトトを見て、心の中で笑った。
「あら、奇遇でございますね」
夜彦はおほほと笑い、右目でウインクをする。
「αは百樹 さんと陽太よね?」
カカはふふっと笑って、僕の目の前にご飯とお箸を置く。
「ゆーたんは将来俺の番だから♪」
上機嫌で今にも歌いそうなようちゃんの方を見ると、フライ返しを持ちながらニコッと笑った。
「βは……?」
なんとなく聞いてみたら、ふふんと鼻を鳴らす音が聞こえてきたからその方向を見た僕。
「見てわかるやんか、ぼくぅだよ?」
ニヒッと笑う人が向かいの椅子に座り、頬杖をついていた……それは真昼。
喜怒哀楽がはっきりしているし、筋肉隆々でよく動く身体だからてっきりαだと思っていた。
平凡のβなんて、誰が思うのだろうか。
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