15 / 53

陽太の手作り

 「御前だか、御手洗だから知らんけど……今日から朝日夕馬やからな? まあにぃの言うことをちゃあんと聞いとけば、悪いことはせんから」 ニヒヒと笑う真昼の顔は悪魔にしか見えなかった。 赤い液体……トマトジュースの赤みが口の回りについているので余計怖さが増す。 無茶苦茶なことを言われたらどうしようと不安になっていたら、大丈夫とあの甘い声が聞こえきた。 目の前にお味噌汁と焼き魚が置かれる。 「マーにぃ。あんま意地悪なこと言うと……血、もらえなくなるよ」 深く低い声で言ったようちゃんに真昼はハッとして、バツの悪い顔に変わる。 「ごめんちゃい! なんでもやるから、それだけは勘弁してぇな」 小さい手を合わせ、頭を2回下げる真昼にそんなに僕の血が大切なんだと驚いた。  「だ、大丈夫だから……吸いたい時は遠慮なく言って」 僕がそう言った途端、真昼は花が咲いたように微笑んだ。 「ひる、よい弟で良かったでございますね」 隣で真昼の口元を拭く夜彦のも 「さすが、おれの息子やわ」 自慢気に鼻を鳴らすトトのも 「鳶が鷹を生む……ね」 満足そうなカカのも嬉しかったんだけど、 「ちゃんと言えたね……偉い偉い」 天使のような笑みを浮かべながら、頭を撫でてくれるようちゃんがやっぱり一番だったんだ。  「さっ、冷めないうちに召し上がれ」 ようちゃんの手の先にあるご飯が僕のものだと理解できないくらい美味しそうだ。 米粒が立っていて、艶々と光るご飯 わかめと豆腐が汁から顔を出しているお味噌汁 細長いお皿に三角状の切り身が2つ ほかほかの蒸気と味噌とバターの香りが僕の鼻を擽るんだ。 「陽太があなたのために作ったのよ」 僕のためになんて、嬉しい。 それにさっき、初めてと聞いたから、もっと嬉しくて涙が出そうになる。 「いただきます」 箸を左手で持っただけで失笑されていたのに、その雰囲気さえない。

ともだちにシェアしよう!