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いちぐし
まずは黒い茶碗を持って恐る恐る口元へ運び、啜る。
ずずず
甘くて温かい汁の中にするりとわかめも流れ込んでくる。
次にわかめが絡んだ豆腐を掴み、口へ放り込む。
はふはふ
味噌の酸味が豆腐に染みていたから、すぐにご飯をかっ込んだ。
「愛情込めて焼いたいちぐし食べてくれないの?」
ふわりと後ろから抱きしめられ、耳元でいじけたように囁くようちゃんに身体がいい意味で震える。
「いち、ぐ……し?」
僕が食べたことはないけど、普通の鮭のバター焼きと言えば細長い切り身……お腹の部分だよね。
でも、目の前の切り身は頬の部分なんだ。
「一番いい部位っていうのを"いちぐし"とここでは言うんだ。日本では食べにくいから嫌煙されることが多いんだけどね」
僕は骨を苦労しながら取り、ほぐした身を口に入れる。
ほろほろ
バターの甘味と鮭の旨味が溶けていく。
味が消える前にご飯をかっ込み、味噌汁を啜る。
僕が憧れていた和食に、日本ではない場所で出逢えたんだ。
「君はいらないから捨てられたんじゃない……僕らに出会うためにあのくだらない家からもらったんだよ」
優しく耳元で諭すように言ってくれたから、うんと素直に言えたんだ。
だって、本当にそんな気がしたから。
「美味しい?」
嬉しそうな声で言うから、わかってるくせにと思う僕。
「美味しいよ」
でも、ちゃんと言葉にして伝えたいんだ。
「良かった♪」
ふふっと笑って、より強く抱きしめてくれるようちゃん。
「ようこそ、朝日家へ」
僕は本当にこの家の息子、弟になれた気がした。
今度はなぜか僕の頭にようちゃんの顎が突き刺さる。
「食べ終わったら、この街に合う髪型に変えようね」
なんなら俺と同じピンクにしようよと甘く言うようちゃんが穏やかに笑っているのが振動で伝わってくるんだ。
僕は伸び切った髪を短くしたいってずっと思っていた。
でも、もし派手な髪色に変わっても、いいなと思えた。
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