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僕は首相

 「残念でございましたね、チャンスをお与えいたしましたのに」 だんだん若くなっている夜彦の言葉の後に執事の叫び声が響いた。 まるであの日僕が心の中で叫んでいたように声が裂けていた。 きっと僕の記憶を消す力が発動したんだ。 思わず振り返ったんだけど、だれかの手に目を覆われて、前へ戻される。 「めがよごれるわ……きたないもん、ゆうちょはみんでええの!」 手の正体は真昼だった。 「あさひゆうま、あさひけのよんなん……それだけでええから」 クククッといつもの意地悪な感じで笑ったけど、僕は優しさを感じたんだ。 「以後、朝日家の名を口にせぬように……ゴミが」 そう口にしたけど、やっぱりスッキリはしなかった。  「ゆーたん……全員殺してきても良かったよ?」 追いついてきた変わらずカッコいいようちゃんが僕の横にきて微笑んだ。 赤かった目は一瞬で鳶色に戻る。 「そんなことしなくてもいいよ、大統領」 僕が口角を上げると、優しく僕の頭を撫でてくれた。 「さぁ、すぐに帰ろう……民が待ってる」 ようちゃんが僕の手を握って走り出したから僕も走っていく。 後ろには真昼も夜彦もいるから、怖くないんだ。  23歳になったようちゃんは文潟の大統領。 外交など文潟の顔になった。 僕は文潟の首相。 文潟の内政を担当する。 だから、本当は僕を頼らねばならなかった。 25歳になった夜彦は文書を作る官僚。 言葉が好きな夜彦は声明など僕らが公式に出す文書の原文から校正までやってくれている。 24歳になった真昼はデザイナー。 メインは無限さんのところで新たに生まれた子や文潟に移住してきた人に交付する命名状のデザインをすること。 でも、たまに呉服屋『一』で服のアレンジもしているんだ。 兄弟全員が文潟を支える人になった。 本当に差別もハードルもないんだ。  1人で悩んでいる君、楽園に来ないか? 大丈夫、すぐに気に入ると思うよ。

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