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食べ物を言うだけ

 「ゴラッ! つかずくあ、ホゲっ!」 さっきとは違い、鬼のような声を上げて、夜彦を睨むイチさん。 「イチちゃん、お許しくださいませ……あまりの愛おしさが溢れ出たのでございます」 夜彦は眉をハの字に曲げ、両手を合わせてイチさんに乞う。 でも、イチさんはふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。 険悪な雰囲気に僕はどうにかしなきゃと思ってオドオドしていたら、手をギュッと握られた。 「大丈夫、すぐに楽しくなるよ」 ようちゃんはいつもと変わらない笑顔を浮かべた後、奥へと入っていってソファに座る。  トワさんと夜彦が向き合っているうちに、ニヤニヤと笑い始めた。 変わった空気を察した真昼とイチさんも2人の方を見る。 「ぺロン、ぺぺロロ、ペペロンチーノ 」 舌をペロペロしながら言うトワさん。 「カル、カルボン、カルボナーラ」 アウアウしながら夜彦も返す。 「ボルン」 「ベルボ」 「ネルネル」 「ゼーゼ」 トワさんから夜彦への順に言っていく。 「「ボロネーゼ!」」 2人で揃って叫んだ後、変顔をする。 トワさんは鬼の面の口に、夜彦はひょっとこの顔をして僕とようちゃんの方と真昼とイチさんの方と交互に顔を向けた。 4人とも、ドッと大笑いをしたんだ。  「牛丼」 今度は夜彦から先に言う。 「カツ丼」 トワさんもニヤニヤしながら返す。 「「けーいはん!」」 楽しそうに叫んで、熱い抱擁を交わしていた。 「た、ただ……アッハッハッハ!」 甲高い声を上げ、腹を抱えて笑うようちゃん。 「食べ物言うてるだけやん!」 そう突っ込みながらも低い声で笑う真昼。 「あっあっあっあっ!」 拙い発音ながらも笑うイチさん。 そして、あまりの面白さに声が出ない僕がいた。 ギャグをしたトワさんと夜彦もたまらず笑い、美容院『瞳耳』は笑いに包まれたんだ。

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