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「おまえは深美が好きで、だから俺と距離を取った。俺から離れた理由はそれしか考えられなかった。親友だと思ってた奴が自分の好きな女と付き合ったら……そりゃ嫌な気分になるよな。取ったわけじゃないけど、おまえはそんな気持ちだったんじゃないかって、ずっと思ってたんだ」
「それはどうかな。俺はただ、二人の仲が良かったからその邪魔をしたくなかっただけだ。彼女が俺を嫌いな事はなんとなく気づいてたし、お互い親友ごっこをする歳でもなくなってた」
「……そうか」
「そうだよ」
藍沢は手に持っていたプラスチックのコップへ視線を落とした。急に立ち上がって腕を伸ばした。
「え?」
「コーヒー。お替りするだろ?」
答える間もなく、手からコップを取り上げられた。藍沢はそれを持ってラウンジの奥へ行った。藍沢の背中が高校生の頃のそれと重なる。気づいて苦く微笑んだ。いつもその背中を追い掛けているような気がした。追いつきたかったわけじゃない。ただ、その後ろ姿を見たかっただけだ。変わらない背中が俺を十年前に引き戻した。
「どうぞ」
目の前にミルク入りのコーヒーが差し出された。俺の好みを憶えていてくれた。それだけで嬉しかった。藍沢は小さく息をつくと、さっきと話題を変えた。
「仕事は? 今は何をしてるんだ」
「医療系の商社だよ。簡単に言うと、MRIやCTなんかのイメージング装置やその関連システムを海外の基幹医療に売ってる。内視鏡や腹腔鏡のオペなんかで使う器具も扱ってる。まぁ、中堅の医療系商社だから大した事はないよ。社名言っても分からないと思う。仕事の自由度は高いけどね。おまえは?」
「俺は個人で輸入の代行をやってるんだ。アンティークの家具や雑貨なんかを扱ってる。今回はシャンデリアを探しにこっちへ来たんだ。いいメーカーがあったら独占販売の権利の交渉なんかもやる。それを輸入雑貨系のショップに卸したりしてるんだ」
藍沢は都内にあるショップの名前を幾つか答えた。
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