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「扱うものが違っても、同じような仕事してんだな」  藍沢はダブルカフスのシャツの袖口を、アンティークの温度計を模したカフリンクスで留めていた。計算された袖の長さとパリッと糊のきいた袖口に、藍沢らしいセンスと清潔さを感じた。背が高く肩幅もある藍沢にはチョークストライプの落ち着いたスーツも似合っていた。爽やかだった高校生は成長の過程でそれを失わず、大人の男の色香を充分に身につけていた。 「これ面白いだろ?」  藍沢はカフスを指して微笑んだ。男らしい手首に色気を感じてドキリとする。見つめていたのがばれたのも居心地が悪かった。 「おまえが営業をやってるのは意外だな。研究職とか、そっち系に行くのかと思ってた。まぁ、英語は得意だったもんな」 「藍沢はそのままだな。人と話す仕事がしたいって、ずっと言ってたもんな」 「ああ。今の仕事は気に入っている。常に話す相手が変わるのも性に合ってる。デスクワークとかそういうのも苦手だし……、まぁ、今日みたいな面倒もあるけどな」  自分の知らない十年を認識させられるのは辛かった。そう思ってハッとする。辛いってなんだろう。藍沢は俺に会えて嬉しそうにしている。けれど、自分は……。二人の気持ちの落差に眩暈がしそうになった。 「藍沢、結婚は?」  指輪が嵌められてないのを確認してから訊いた。 「してない。まぁ、お互い二十八だもんな。石川を憶えてるか? あいつはもう三人の父親だよ。なんか笑えるよな」  同じクラスの友人で警察官になった石川が結婚しているのは知っていた。自分は一生結婚する事はないだろう。この年になって自身の性的指向は決定的なものになっていた。 「光太郎は?」 「いや、俺もしてない。俺は多分、一生独りだ。誰かと一緒に暮らすのは向いてないんだ」 「そうか?」 「ああ」

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