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 大学へ進学して間もなく男と寝た。藍沢によく似た、背が高く眩しそうな顔で微笑む男だった。自身の性的指向を見破られ、半ば犯されるような形で関係を持ったが、気づけば自分の方が夢中になっていた。求めても得られなかった藍沢の体を追い求めるように、相手の体を貪った。  筋肉がうねった背中にしがみつきながら、逞しい男の性器が入ってくる瞬間、藍沢の顔を思い浮かべた。  藍沢はどんなセックスをするんだろう。どんな風に女を抱くのだろう。どんな顔をして、どんな声を出すのだろう。どうやって元橋を抱いたのだろう――。苦しい幻想はいつしか自分の快楽と繋がって、甘い妄想の奥へと押しやった。男と寝る事が藍沢に抱かれる事にすり替わっていた。  体を繋いでいるとそれが相手にも分かるのだろう。誰と付き合っても上手くいかず、最後は罵られて手酷く振られた。 「恋人はいないのか?」 「いないよ。そもそも俺は藍沢みたいにモテないしな」 「なんだよ、さっきから。せめて友章って名前で呼んでくれよ。傷つくな、ホントに」 「悪い」 「……モテない事はないだろ? 謙遜するなよ。おまえは小さい頃から自分の世界を持ってた。俺はそれが羨ましかったよ」 「まさか」 「まぁ、そう言うなって。確かに俺は人から好かれる能力に関してはちょっとした才能はある。それは認める。けどな、そんなものはなんの役にも立たない。ただ耳がいいだけなんだ。相手が何を求めているか……何を言って欲しいのか、何をして欲しいのか、その声がちらっと聞こえるだけだ。聞き取れる能力なんていう大したものじゃない。心の雑音を聞いてるだけだ。壊れた機械のキシキシいう音を聞いてるのが耳触りだから、仕方なくそれを直す。やりたくてやってるわけじゃない。意味のない事をやってるなと思うよ。時々、自分が堪らなく嫌になる」

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