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「そうかな。空気を読めるのは才能だろ? 今の世の中、それができない奴は容赦なくダメ人間の烙印を押される。他に才能があってもな。昔は一部の人間だけがそれを求められたが、今は誰もが持っていて当たり前だとみんな思ってる。一番必要な能力かもしれない。藍沢は贅沢だよ。それがなくて苦労している人が世の中にはたくさんいる」 「確かに仕事では役に立ってる。本当はこんなスーツなんか着たくないし、シャンデリアにも興味はない。ただ、分かるんだ。相手がどんなものを欲しがってるのか、分かる。それがどこで手に入るか、どうやったら手に入れられるか、考えなくても分かる。むしろ分からないって奴の事が分からない。傲慢だと思うか?」 「いや……」 「分かるからやってる。けれど、実感はないんだ。努力してる実感とか、誰かの役に立っている実感がない。何をやっても、感情の奴隷みたいで虚しいんだ。本当に何も手応えがない。俺のしてる事に意味はあるのかなって――」 「意味のある事をやれてる人間なんていないよ。みんな意味を持たせる事に必死になってる。わざわざ言わないだけだ」  藍沢はわずかに微笑んだ。 「おまえはさ、不思議なんだよ。おまえといると俺はその能力をほとんど使わない。最初は二人の距離が近すぎるからだと思った。必要ないんだと思ってた。物心つく前から一緒にいたし、家族っていうか、本当の兄弟みたいだったもんな、俺たち。でも、ある時、気づいたんだ。俺はおまえの前でその能力を、使わないんじゃなくて使えないんだって。俺はおまえの本心が分からなかった。本当は何を考えて、何を求めているのか、幾ら考えても分からなかった。読めなかった。それが自分のスキルが足りないせいなのか、おまえの中の何かがそうさせているのか、分からなかったけど……とにかく使えなかったんだ。苛々もしたし、理由を探ろうとして見つからなくて、諦めるのを繰り返した。その中でなんとなく分かったのは、おまえが他とは違う自分の世界を持ってるからだって――違うのはそこだと分かった」

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