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「あの時のキスもこんなだったか?」  微かに頭を振る。感触がまだ残っていた。 「ちゃんとしろよ」 「できるか。ここで」  藍沢は少し屈んで笑うと、俺の肩に腕を掛けた。ぐっと引き寄せられる。 「さっきの言葉に嘘はないな?」  甘く掠れた声が真剣に響いた。 「恋人と別れてくれるのか?」 「恋人がいるなんて嘘だよ。あれは最後の賭けだったんだ。おまえがいつまで経っても俺を好きだって言わないから、ひと芝居打った」 「…………最低だな。さっきの言葉は撤回する」 「もう無理だ。タイムアウト。おまえは俺のものだ」  藍沢は背中に回している手に力を込めた。ぎゅっと抱き締められる。 「空港でおまえを見た時、思ったんだ。ラストチャンスだって。ダメでもいいから気持ちを伝えようと思った。自信はなかった。つい数時間前まで、おまえは深美が好きだったと思ってたんだ。でも……おまえが見てたのは深美じゃなくて俺だったんだな。それが分かった」 「自惚れてる……」 「あはは。なんとでも言え。あの頃、おまえの心が読めなかったのは、俺がどうしようもなくおまえに惚れてたからだ。でも、それだけじゃないよな?」 「…………」 「まぁ、いい。泣いて追い掛けてきたのは事実だし。俺は最高に幸せだ」  甘い声が耳元で響いた。 「神様っているんだな」  藍沢は小さな声でメリークリスマスと続けた。  藍沢の肩越しに朝日が見える。  もうあと少しだけ、雪よ解けてくれるなと心の中で祈った。 (了)

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