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第13話 - 8
松岡さんの相談に対して、先生は大したアドバイスをすることもなく、また進展もないまま今回もカウンセリング時間がオーバーしてしまった。
先生は一体、どう思っているのだろう。わからない。
もうショウって人を追いかけるのは止める方がいいんじゃないか。
そうひとことアドバイスしてあげればいいのに。
なぜ先生は何も言わないんだろう?
聞きたいけど、なんとなく言い出せない。ボクは口をはさめる立場でもないんだから。
でも、どういう意図で何も言わないのか、くらいは聞いてもいいだろうか。
カップを洗って片付けをしながらボクは考えていた。
隣で先生は夜の開店準備を始めている。
「先生、」
「なあに、ルイ君」
「いや、あの……」
話しかけたものの、やっぱり言い出せないで言葉を飲み込む。
「気になることがありましたか?」
「ええ、いやあの、先生は本当はどう思ってるのかなって……」
「松岡さんのさっきの話?」
「はい」
「どう思ってるか、って…… ルイ君はどう思ったの?」
「ボクですか? ボクは…… こんな言い方は酷いかもしれませんが、もうショウって人の事を想うのは止めた方がいいんじゃないかと思うんです。松岡さんもツラそうじゃないですか。先生はどう思いますか? ショウって人とうまくいくと思いますか?」
「どうでしょうかねぇ。まあ、今のままではなかなか厳しいんじゃないかな」
「だったら、止めた方がいいって言ってあげてもいいんじゃないでしょうか。本人も薄々、もうダメだって内心では思ってるんじゃないですかね?ちゃんと言ってあげる方が親切なのでは。何も言わないで帰すなんて……」
「うーん。もしルイ君が松岡さんの立場だったら、もう止めろって言って欲しい? 言われたら止められるの? 他人に『こうしろ』って言われて、気持ちは変わる? 」
「はぁ……」
ボクは言葉を失ってしまった。
「私はそう思わないよ。他人が何を言おうが、結局最終的に決めるのは自分しかいないでしょう。特に誰かを想う気持ちなんて、他人に言われて変わるものじゃないと思いますね。自分自身でさえどう扱ってよいか分からなくなるんだから」
「確かにそうかもしれませんね……。でもせっかく相談に来ているんだから、何か言った方がいいんじゃないかと……」
「ただ聞く、というのも大事ですよ。松岡さんは何度も選んでここへ来てくれてるのだから、大丈夫ですよ。
本人も本当は自分がどうしたいのか、分かっているのですよ」
「分かっているんですかね? それなのに、相談に来るなんて、どうして欲しいんですかね」
「話すことで、自分の頭の中を整理できます。
彼はね、私の意見が欲しいのではないんです。聞いて欲しいんですよ。それが、誰にでも話せる内容ではないから、わざわざここへ来て、たくさん話して帰るのです」
「じゃあ、ただ聞く、というだけでも松岡さんにとっては役に立てているってことですか」
「そう。でもね、ただ聞く、というのは意外と簡単ではないんです。ついあれこれ口を出したくなるのが普通ですからね。ルイ君がそう思うのも無理はないですよ」
そうか。ただ聞くだけ、という事が役になっているのか……
待てよ、ボクが気になっていたのは、松岡さんの件ではアドバイスするかどうかというだけではない、彼の恋の行方がどうなると思うか、という事だ。
先生は「厳しい」って言ったんだっけ。
そうだよなぁ、やっぱり厳しいよなぁ。
松岡さんもそれを本当は分かっているってこと?
この後、どうするんだろう。
「松岡さん、どうするんですかね?」
「どうするんでしょうね。遅かれ早かれ、松岡さんの方から別れを切り出すんじゃないかな。私が気になっているのは、切り出し方です。
でもまあ彼は自分を大事にするタイプだから、自分自身が傷つくような事は避けるだろうから、心配ないかな。大丈夫ですよ」
先生はそう言ってボクににっこり笑った。
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