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第13話 - 9

果たして、それから10日ほどたった頃に松岡さんが再びやって来たのだが、先生の言った通りになっていた。今度は軽い報告とのことで、夜のバー タイムにやって来た。 ドアからのぞいた彼の表情は、妙にスッキリしていた。 「がんばりましたね、松岡さん」 先生が声をかけると、松岡さんはひどく驚いていた。 「あ、はい、って、ええ? 先生、もう知っているんですか?」 先生は柔らかい微笑を浮かるばかり。 「そうなんです、思い切って、分かれる事にしました。友達だか恋人だかの事も、会う前は問いただそうと思っていたんですが、止めました。聞いても腹が立つか、悲しくなるか、それだけでしょう? 気持ちがかき乱されるだけで何の得もない。時間と感情の無駄ですよ。だからもう、スパっと。 向こうも特に反対もありませんでしたね。『別れても友達でいられるか』って言うから、性格上それは無理だと答えました。だいたい友達って今さら何なんだ。 ああ、あと、『世界旅行に一緒に行く件はどうなるのか』と聞いてきましたね。そんなこと、この状況でまだ一緒に行こうと思っていたのか、逆に驚きましたよ」 いつもに増して饒舌に話す松岡さん。 「あとですね、話せずにいなかったけど、セックスのやり方もイヤだったんですよ。あいつは行為を鏡に映して見せるのが好きなんですよ。変態じゃないかと思いますよね。 それを見せられるのが苦痛でね。屈服させられている感じがイヤで。セックス自体は悪くなかったけど、それだけはどうしてもイヤでした。だいたい、キスだっていやにしつこいし。舌を入れたり、唾液交換とか…… ちょっと耐えられなかったんですよ、実のところ。あんなことさせられたのは初めてですよ」 その後もずっと聞いていると、最初に来た時には経験豊富だと言っていたが、どうやら松岡さんはディープキスやセックスが初体験だったらしい。 ボクはいろいろモヤモヤしたけど、「ただ聞く」という姿勢に努めて終始した。 そしてなんだかショウという人が気の毒になった。 ショウさんの何が本当で何が嘘だったのかは分からないけれど、最後に「友達でいたい」とか「一緒に世界旅行に行きたい」と言ったのは本心だったのではないか。彼は彼なりに、松岡さんの事が好きだったのではないだろうか。 なんにせよ、スッキリ解決したようなので、多分これで良かったのだろう。 「でもまあ、楽しい思い出もたくさんできましたし、あちこち食事や旅行に行ったのもいい思い出です。だから出会った事には後悔してません。 色々悩んだけど、やっぱりここに相談に来てよかったです。ちゃんと結論が出せた気がします」 何度もボクたちに御礼を述べる松岡さんを見送った後、店の扉を閉めると先生が言った。 「どんなに想い合っても、すれ違う恋もありますね……」 ボクは少し切なくなった。 (第13話 END)

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