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第14話【ルイ君の2月14日】 - 1
「ルイ君、14日は空けておいてくれますか」
年が明けて、何が忙しいのか分からないうちに1月が終わりかけていた頃、先生が言った。
「あ、はい。わかりました」
2月14日って、ああ、もうバレンタイン前か。
今年も何の予定もないな。
どのみちバイトに入ろうと思っていたから問題ない。
店のパソコンでスケジュールを確認する。
セラピーの予約は…… まだ14日は入っていない。
「先生、14日は予約まだ入っていないですね」
「ああ、その日は予約入れないでおいてね。兄が……、暁星(あきら)が来るから、一緒にここで夕飯を取ろう」
暁星さんは瀬戸内の小さな町で、先生の実家の家業を継いでいる。つまり陰陽師だ。ボクは詳しくは知らないけれど、暁星さんはお祓いの専門家だそうだ。
年に何度か先生に会いにやって来る。
「兄弟で仲が良いんですね。羨ましいです」
「まあ、そうだね。ルイ君だって、お姉さんと仲が良いじゃない」
「いや、ボクのところは……。姉がお節介なだけですよ。母も姉も煩 くて」
ボクはつい顔をしかめる。
実際あの2人はいちいちボクのする事に口をはさんでくる。
「もう子供じゃないんだから、放っておいて欲しいですよ」
「へえ、そうなんですか」
先生は愉快そうに笑った。
「14日は泊まって行くといいから、お母さんとお姉さんに断っておいてくださいね」
「え? 泊まりですか?」
「そう。いいかな? 暁星兄さんも泊まるから、帰りを気にせずゆっくり過ごしましょう」
「ボクも? 先生の家に? いいんですか?」
「このビルの上ですからね。近いでしょ」
先生の家!
初めてだ!
このビルの上に住んでいるのか。
「わかりました、お邪魔します!」
先生に初めて会ったのは中学生の頃。バイトに来るようになってから会う機会も増えたけど、ボクは先生の事をほとんど知らない。
いきなり食事やら泊まりやら…… 驚いたけど、楽しみだ。
それから、14日の事ばかり考えている。
何か手土産を持って行く方がいいよなあ、お世話になるんだもの。
何がいいかな……
ああ、全然思いつかない。
先生はどんなものが好きなんだっけ?
暁星さんもいるんだもんなあ。
どんなものが喜ばれるかなあ……
ウチは父も母も仕事でほとんど家を空けているので、姉と2人暮らしのようなものだ。
姉は真理愛(まりあ)といって、ボクの4つ上。昔からボクを家来か手下扱いしている。以前は家の事を少しはしてくれていたが、大学を出て働き始めてからは、家事を一切せずボク任せ。夕飯の事もあるから、外泊時は事前に連絡しておかなくてはならない。
「へえ、どこに泊まるの」
どこだっていいじゃないかと思うけれど、答えないと面倒だから返事をしておく。
「蘆屋 先生のところ」
「え? え? ホントに? いいなあ~ルイ!! 私も先生の家、行きたい~!」
姉はいつからか分からないが、蘆屋先生のファンだ。
ちょうどいいから相談しようか。
「手土産を持って行こうと思うんだけどさ、何がいいかな」
「ああ、そうね、持って行く方がいいわね。何かなあ…… えっ、14日でしょ? バレンタインじゃない! チョコレートとか?」
「ベタじゃない?」
「そういうのはベタな方がいいの! 今ならバレンタインのフェアで、普段ないようなものもたくさん出てるし、絶対いいわ!」
「ふうん」
「じゃあ明日、連れてってあげる。新宿でショコラフェアやってるの、ちょうど私も行こうと思ってたの。定時で上がるから、時間厳守ね」
「ええー、いいよ。ボクひとりで行く」
「はぁ? 何言ってんの。あんた、一人で選べるワケ? だいたいさぁ、お店も人出も凄くて、あんたみたいなのがのんびり選べるような状態じゃないんだから」
目が爛々 と輝いてきた。
こうなったらもう、何を言っても無駄だ。こういうところは、姉と母はそっくりだ。いつもの事ながら、うんざりする。外面はいいクセに。
自分で選びたいのに……。
でも確かに姉の言う通り、ボクはチョコレートに詳しくない。人込みも苦手だ。
仕方ない。
大人しく引き下がって、翌日新宿で待ち合わせ、姉おすすめのチョコレートを無事に購入したのだった。
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