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第1話

 儚い夢。ひと時の夢。幻想。消えやすい泡沫の想い。継続しがたい断片的な感情。熱しやすく冷めやすい炎。それゆえに、消えては擦り、消えては擦り……。  狂ったようにマッチを擦るマッチ売りの少年、ジュリアン。  窓の棧に粉雪が積もっている。最初はガラス部分に付くと溶けていた雪も、棧に降り積もっていくにつれて冷えていく窓ガラスを埋めていく。  赤いフードつきのマント。厚ぼったい地味なチャコールグレーのウールのスカート。黒く不恰好な男物のブーツ。外側は防水のオイルレザー内側はモコモコのウールの膝まであるブーツだ。  十九世紀欧州の街角。白い雪が肩にかかる。雪は横殴りになって、昼の間から、どんより重く、厚く雪雲のたれこめていた空は夕刻になったのかさらに暗くなってきた。意識が遠のきそうになる。今朝から何も食べていない。夕べお湯のような、腐った野菜の端切れの入ったスープと、かたいパンの端切れをかじっただけだ。

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