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降雪の兆し

  三十八度九分。  体温計に表示された数字に倦怠感が増す。帰宅したばかりでやらねばならない事をあれこれ積んでしまっていたが、スーツと共に全て投げ出してベッドに潜り込んだ。  横になった途端に、頭が枕にめり込んで沈んでいく錯覚が起きる。熱があるのにとても寒くて、耳の辺りまでギッチリと毛布で覆った。ひどい頭痛で寝付けなくて、何度も布団の中で身じろぐ。  頭痛が和らぐポジションを探して体勢を変えまくったが、痛みはジワジワと増す一方で無駄な足掻きだった。そのうち節々にも痛みが響くようになって、動く事も放棄せざるを得なくなる。絶不調だ。  毎年のようにこれを味わっている。決まってこの時期、雪が降り出しそうな寒波が訪れる頃だった。秋から冬にハッキリと切り替わる境に、僕はいつも体調を崩す。数日前から喉が痛くて、駅の購買でどの味ののど飴を買うかとても悩んだ。それから一週間も経たずにやはり僕は発熱した。  随分前からマスクを常用していたし、喉が荒れてからも悪化するのを気にして手洗いうがいもしていたし、きちんと部屋を加湿までしていたのにこのザマなのだ。  もうこれは、僕限定の年間の恒例行事のようなものなのだろう…。布団の中で微かな加湿器の運転音を恨めしく聞きながら、僕は時間をかけて微睡んでいった。

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