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深夜に舞い降る

 布団の中の温度がすっかり暑苦しくなった頃、遠くで玄関のチャイムの音が聞こえてくる。いつの間にか深く眠っていた事に気付かされる。体は汗で蒸れて気持ちが悪いし、ズキズキと小刻みにうっていた頭痛の波はゴーンと深く重いものに変わっている。  二度、三度目のチャイムが立て続いて、眠気から覚めず目も開かぬ朦朧としたままで鉛のような身体をやっと持ち上げた。こんな状態ならば、居留守を使ったとしても構いやしないだろう。けれど、僕は毎回ズルズルと身を引きずってでもドアを開ける。  こんな夜中にこんな状況で、僕の部屋のチャイムが鳴るのは初めての事では無い。記憶の中では何度か経験したことだ。これもまた、僕だけの恒例行事のようなものだった。どんなに辛くても無理をしてでも扉を開けたい理由があるのだ。  ドアを開いた先に、冷気と共にふんわりとした真っ白なファーがぼんやりと見える。黒いコートのフードの縁に付いた豊かなファーに覆われたその顔は、いつもよく認識できない。白い息を立ち込ませながら発せられる柔らかい声色が微かに耳に届く。何を言われたのかは分からない。僕の精一杯がそこで途切れて、向かい合ったコートの肩にガクリと凭れ掛かる。ヒヤリとしたコートの固い布地が火照った頬に当たった。

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