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第5話

その時は、ふ、っと音が遠くなる。 知ってる? ベッドにうつぶせに倒れ込み、あんたはおれの上にのしかかる。 寒い寒いって言いながら始まった戯れは、汗だくで終わる。 体重をかけないように。 でも、体温は感じるように。 あんたは優しくおれを包む。 耳元できこえる荒い息とは別に、外から聞こえていた音が遠くなった。 「あ」 「ん? どうした?」 「降ってきた」 「雨?」 「違う。雪」 あんたが半身をあげてくれたから、おれはあんたの下から這い出して、カーテンの隙間から外を見る。 はらはらと、舞う、白い欠片。 「ホントだ」 おれの後ろから一緒に眺めていたあんたが、また、おれをベッドの真ん中に引き戻す。 「お前は雪に敏感だな」 「音が遠くなるから、すぐわかる」 雨なら、雨垂れが聞こえる。 雪は音を吸うから、外の音が遠くなるんだ。 家の中にいると閉じ込められているように感じる。 「積もるかな?」 「さあ……一晩降っても朝のうちだけで、すぐに溶けるんじゃないか?」 「そっか」 あんたがおれの背骨をなぞる。 指先でそっと、骨の形を確認するように、ひとつひとつ丁寧に撫でていく。 「ぁ……ん、ん…ん…」 「もう一回、いい?」 「あんたが大丈夫なら、いんじゃない?」 「そりゃあ、やってみないと、わかんないかな」 さっきの余韻がまだくすぶっているおれは、それだけですぐに蕩けてしまう。 耳の後ろを舐めあげてから、おれの腰を持ち上げてあんたが中に入ってくる。 「ん……あ、あ……いい……」 「気持ちいい?」 「うん。気持ちい。好き……」 「俺も好き」 優しい人。 雪が降るとおれは寂しくて仕方なくなる。 あんたは知っているから、雪予報の時はいつも以上に優しくなる。 でもさ。 あんた知らないだろ。 あんたがそうやって優しくなるから、最近のおれは、雪の日が楽しみなんだよ? 今日は、朝から楽しみがたくさんだった。 いつ降るかなって、わくわくした。 朝からずっと白だった日。 夜中の雪で、白いまま終わった。 今日はそんな日。 なにもないけど幸せな日。 <END>

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