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新たな世界はあたたかく
「ひゃー! 積もったなー!」
翌朝。由宇は「ちょっと体痛い」と言って起きたにもかかわらず、障子を開けて外の様子を見れば、テンションは一変した。
がらっと障子を窓を全開にして「見に行こうぜ!」と晴兎を誘ってきた。
「おい、飯もまだだろ」
先走り過ぎのその様子には苦笑してしまうけれど、これほど喜んでくれること。
昨夜の風呂で感じたのと同じ嬉しさが込み上げてきた。
「いいから! ちょっとだけ!」と走り出さんばかりだった由宇。着替えだけして二人で庭に飛び出した。
椿の葉にも、南天の葉にも、緑の上に白がぽってりと積もっている。
それを触って、ばさっと地面に落として、「つめてー!」などはしゃいでいる由宇。
とてもかわいらしい……と思ったのは、恋人の贔屓目ではないだろう。
「雪って冷たいんだな」
それは晴兎にとっては当たり前のことだったけれど、由宇にとってはちっとも当たり前のことではない。昨日は風呂の中で降るのを見ただけだったので、触れる機会はなかったのだし。
「そりゃ冷たいさ。だからあんま触ってると……」
しもやけになるぞ。
と、言うつもりだった。けれど晴兎のその言葉は呑み込まれる。
「でも体はあったかいんだ。ヘンだよな。こんなにさみーのに」
確かに身を包むのは、雪が降ってくるほどの寒さ。朝早いのだから寒さは余計に強い。
「……俺もあったかいような、気がするよ」
晴兎はちょっと黙ったあとに言った。実際、胸の奥はほかほかとあたたかかったのだ。
だって新しい世界に由宇を連れてくることができたのだ。
いや、連れてくるだけではない。二人で身を置くことができた。
冬という、新しい世界に。
二人で過ごすのは初めてとなる。冬という新しい世界。
あたたかく思っても当然だろう。ひとつずつ新しい季節に踏み込むたびに、二人の結びつきも距離も近くなっていくのだから。それは身を寄せあっていない今でも同じ。
「雪だるま、作れるかな!」
雪をすくっては散らして遊んでいる、恋人。いや、それ以上に強い結びつきを持つことができたパートナー。
その首元には、晴兎が昨日巻いてやった緑のマフラーがしっかり巻き付けられていた。
(完)
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