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愛を交わす

 するっと触れたのは平らな胸。湯のためか、既にすべすべと滑らかだ。吸いつくような、といってもいい。  元々肌が綺麗な由宇。この湯の効能はなんだったかわからないけれど、きっと肌にも良いことだろう。  撫でるだけでは済まないけれど。羽根でするように、やわらかく撫でる。それは単に触れるというより、愛撫の開始になるようなもの。  胸から腰へ、そして脚の付け根へ。やわやわとさするその手はお湯の中のせいだろうか、少々抵抗感を感じる。揺れる湯の感触も。普段と違う状況なことをはっきり伝えてきた。  由宇は居心地悪そうにもそもそとしている。夜のはじまりはいつもこうだ。  おまけに今日は照明がついていて明るい場所。宿の風呂なのだから消せということもできないだろう。晴兎にとっては有難い話だ。  半透明の湯のためにはっきりとは晒されないけれど、うしろから抱き込まれていれば、ほんのり肌、というか体のすべてが見えていることはわかっているだろうし。  ちゅ、ちゅっと首すじに吸い付く。ほのかに甘いような錯覚すらする。湯にも肌にも味などついていないのに。  でもその味のためにもっとよく味わいたくなってしまって。キスだけでなく、軽く歯も立てた。由宇がちょっと身をよじるほどに。 「痕、つくだろ……」  言われるけれど、この冬の季節には関係ないだろう。こういう広い風呂、銭湯でも行かない限り、服の隙間から首すじなど見えないのだから。 「服で隠れるだろ」  そのまま言ってやる。夏にはキスマークが見えるところについてしまって怒らせたりしたな、と懐かしく思う。  その夏もすっかり過ぎて、秋も過ぎて、もう冬になる。まだ半年ほどの付き合いだけど、いや、だからこそかもしれない。過ぎていく季節が愛おしく思う。一緒に過ごした時間が増えていくということだから。 「そういう、……んん!」  やわらかく腿を撫でると由宇の息が詰められた。色っぽいそれに、どくどくと心臓が高鳴っていく。  脚と付け根は弱い。やはりソフトに刺激していく。由宇の体と心を煽っていくように。  首すじにも吸い付いてキスマークを残す。自分で『服で隠れる』と言ったせいで、いいかと思ってしまった。こんな、旅行という非日常なのだ。許されると思いたい、と勝手に思う。  片手では胸も刺激して。胸板だけではなく、胸の先もてのひらで掠めるように触れていく。  お湯であたためられているので胸の先はまだやわらかい。けれどてのひらで掠めるたびに由宇の体は震えて、そこも反応していく。時間も経たずにツンと上を向いた。  寒くてこうなっているはずはない。刺激によって反応してくれたと思うと嬉しいばかりだ。 そしてそろそろ。  するっと下肢に手を伸ばす。張りつめはじめたものが手に触れた。  きゅっと握るととくとくと脈打っているのが伝わってくる。はぁ、と由宇のため息が零れた。 「ん……っ、ふ、……っあ、」  優しい手つきで扱きはじめる。由宇の声が途端に甘くなった。ぎゅっと晴兎の腕が握られる。  素直に感じてくれるその様子が愛おしくて、再び首すじに吸い付いてしまう。やわらかくさする手つきはだんだん力がこもっていって、そのうちはっきりと刺激するものへ変化した。 「ふぁ! あっ、も、ゆっく……り、ひぁ!」  ゆっくりと言われても。 「由宇だって、ちょっと強いのがいいくせに」  首すじに埋めていたのでちょうど耳元。そこで言ってやると由宇の体がびくりと震えた。横顔の頬が染まったのも、お湯のせいであるものか。 「うる、さ……っ!!」  文句は途中で詰まってしまう。晴兎の手が感じる鈴口を、くっと押し込んだからだ。そのまま敏感なところを撫で回してやる。由宇の甘い声が次々に零れた。  首すじに触れていた顔をあげて、耳に触れる。ちゅっと耳をくちびるで食むと、由宇の体がはっきりと跳ねた。 「ひゃっ! ちょっ、そこ、やめ、ぇっ」  耳は弱い。特に右のほうが。  わかっていてそちらばかり苛めていく。  由宇の体はびくびくと跳ねて、そちらからも快感を得ていることは明らかだった。下もつられたように反応が良くなっていく。  そのうち由宇が荒い息で訴えた。 「も、だめ……っ、は、離し……」 「なんで。そのまま……」  イきそうなのにやめろと言われるのがわからない。よってちょっと不満げに耳元で言うと、その吐息にかまた軽く震えたけれど、由宇の言った理由。 「お湯……っ、汚す、から……!」  ああ、なんだ、そんなことか。  自分の愛撫が拒まれているわけではないと知って、晴兎はほっとした。その理由なら問題ない。手に力を込めて、由宇を最後に押し上げるために刺激を強くする。由宇の体がつらそうにも見えるほど震えた。 「あ、なん、で……! だめ、だって、っあぁ!」  晴兎の手の中でソレもびくびく震えている。絶頂感を堪える様子がかわいらしい。 「部屋風呂なんて……こういうこと、するためのもんだろ」  そっと耳に吹き込む。由宇が「は!?」と声をひっくり返させた。 「そ、そんなわけな……っ、あぁっ、も、ほんと、だめ、……っや」 「大丈夫だから。ほら」  きゅっと扱きあげて、くびれを刺激してやったのが最後。由宇の体がびくりとしなった。ぎゅっと晴兎の腕が握られる。 「だめ、……っあ、ひぁ……!!」  びゅるっとお湯の中に白濁した液体が散ったはずだ。半透明のお湯でよくは見えなかったけれど、出る感触は手にほんのり感じられた。  風呂で、なんてめったにできないことだ。銭湯ではこんなことできないし、由宇の家の部屋の風呂はとても小さい。二人で入るなんて、とても。  だから晴兎がこの状況に煽られてしまっても仕方がないわけで。 「はふ……」  逐情してくったりと晴兎に寄りかかってきた由宇。その体を抱きしめていたい気持ちもあったけれど、今度は自分の身が気になってくる。  身の奥でじりじりとしていた熱は、由宇を達させたことではっきりと反応していた。勿論形として、だ。  ぐりっと由宇の腿に押し付ける。由宇も意味がわかっただろう。ふるっと震えた。 「由宇、そっち、向いて」  抱きあげて起こして、岩に体を預けるようにさせる。由宇はおとなしく岩にもたれる格好になったけれど、直後びくっと体が跳ねた。  晴兎が腰を掴んで持ち上げたから。この体勢に思い当たることがないわけはない。 「ちょ! これ、や……」  うしろを晒すような格好にされて嫌だと訴えられるけれど、そういわれても最早止まれない。  腰を捕まえたまま、入り口につぷっと指を沈める。まだ固いそこは一本しか入らないけれど、それでも晴兎の指の侵入にぎゅっと反応した。 「あ、……っ、は……、や、だってぇ……」  ゆっくりナカを掻き回して慣らしていく。狭いそこを拓かせるように。  普段は潤滑剤などを使うのだけど、今、ここにそんなものがあるはずはない。  幸い、お湯であたためられて体が緩んでいるのだろう。潤滑剤なしにしては、ほぐれていくのが早かった。  二本目の指を挿入して、入り口だけでなくナカも拓いていく。それだけでなく、すりすりと内壁を刺激していって、場所を探す。  このへんなんだけど。  思いながら、くっと押し込んだところはアタリだった。 「あぁっ! そこ、だめっ、あっ、やぁ……っ!!」  びくびくと反応したのは由宇の体だけではなく、ナカも同じ。きゅうきゅうと収縮して晴兎の指に絡みついた。  体内で一番弱いところ、前立腺。もう一度軽く撫でてやれば同じ反応が返ってくる。  体も快感のためにもっとほどけていく。準備ができるのに時間はかからなかった。  ごく、と晴兎は唾を飲む。三本に増やしていた指をそっと引き抜いた。  ナカを懐柔していたものがなくなって、ふぅ、と息をついた由宇だったけれど、むしろこれからである。本人もわかっていないはずはなかろうが。  その由宇の腰を掴んで、脚を開かせて。入り口に今度は違うものを押し付けた。目の前の由宇にすっかり煽られ、反応した自分のものを。 「由宇、力抜いてろよ」  確かめるように入り口に擦り付けると、由宇の体が震えた。入り口もひくりと収縮したのが伝わってくる。  ぎゅっと、もたれている岩にしっかり体を預けたのを確認してから、由宇の息がつかれるタイミングで、ぐっと押し込む。よくほぐしてはいたけれど、挿入の刺激に由宇の体がわなないてしなった。 「はぁ……!」  入れるときだけは、いくら慣れてもつらそうなもので。このときばかりは申し訳なくなる。無体を強いているのだと思い知らされてしまうから。  だからつらさを散らすように、前に手を伸ばす。萎えてしまっていた由宇のものを捕まえて軽くさすってやった。そちらからの快感に気をとられて、うしろの感覚が薄らぐように。 「ひ、ぅ! あっ、そっち、だめ……っふぁ!」  ふっと由宇の力が抜けたそのとき。ずぶっと奥まで貫く。晴兎のものは根元までしっかり呑み込まれた。 「由宇……入った、よ」  前から手を離して、腹の下に手を入れて由宇を支える。  すべて受け入れて、はぁはぁと荒い息をついているのが伝わってきた。  由宇の息は荒いけれど、ナカの反応は顕著だった。きゅっと絡みついてきて、離さないといわんばかりである。  そんな刺激をされれば耐えられるものか。由宇の体が落ちつききらないうちに、腰を捕まえ直して、ずるっと半ばほどまで引き抜く。由宇の体がびくりと震えた。 「ひゃ! ま、待って……も、ちょっと……ひぃっ」 「わり、無理……!」  由宇にとっては酷であろう宣言をして、もう一度奥まで沈める。由宇の背中が色っぽくしなった。  はぁはぁと、晴兎の息も荒くなっていく。由宇が落っこちないようにしっかり腰を捕まえたまま、自分の腰を打ち付ける。  ナカでは由宇の内部が熱く絡みついてきていてたまらない。前立腺をつついてやれば、もっとぎゅうっと締まって絡んでくるのだ。  そこから引き抜いて、もう一度沈めて、それだけのことが体に快感と満足感をたっぷりもたらしてくれた。 「あんっ、は、ぁ! はる、と……!」  つらさを通り越したらしく、由宇の声もすっかり甘くなってしまっている。名前を呼ばれて晴兎の心臓がどきりと反応した。  こんな色っぽい声で呼ばれては、もっと激しくなるだけなのに。  そのとおり、ぐっと腰を掴んで由宇のナカを抉る。露天の空間に、由宇の甘い鳴き声と、湯の揺れるぱしゃぱしゃという音が響いた。  セックスだけが目的だったわけはないけれど、目的のひとつではある。  堂々と、非日常の場所で由宇と愛し合いたい、という。  だって愛はいろんな形で伝えたいだろう。それは体を合わせることだって同じだと晴兎は思っていた。  触れ合うことで繋がるのは肉体だけではないから。体を繋げるということは、心の中にまで触れることだ。 「はる、……っ、も、イ……、っく、ぅ……」  由宇の訴えた通り、ナカの反応も断続的になっている。限界が近いことが各所から感じられた。  そして晴兎のほうも。ナカの刺激だけでなく、自分の前でかわいらしく乱れる由宇の姿を見たことで視覚的にも煽られて。 「ん……っ、俺も、もう」  ぐっと奥まで押し込む。前立腺を抉られて由宇が高く鳴いた。  それをいいことにぐりぐりと感じるところばかり刺激してやる。押し上げられるのは由宇のほうが先だった。 「はぁっ、あ、はる、とぉ、あぁ……!!」  びくりと背中がしなって、ぎゅうっとナカがわなないて強く締まった。それに締めあげられてはたまらない。  は、っと息をついて晴兎はこみあげてきていた快感に身を任せる。腰で爆発した快感は、素直に白濁した液体を吐き出させた。  最後の力でソレを引き抜いて、びしゃっと由宇の尻の上にぶちまける。由宇の白い肌に濁った液体がとろりとかかった。  ゴムもなしでしてしまったのだから、ナカに出すわけにはいかない。ちょっと物足りないけれど、由宇の体のほうが大事だ。  はぁ、はぁと息をつきながら由宇がゆっくり脱力するのが伝わってくる。腹の下に腕を差し込んでその体を支えて、ざぶんと湯に二人で沈んだ。元通りにうしろから抱き込む。  しばらく二人の息は荒いままだった。由宇は晴兎の胸に体を預けてくったりとしてしまった。  ちょっと無理をさせただろうか。体勢にも無理があっただろうし。 「大丈夫か……?」  訊いてしまってから後悔した。こう聞けば由宇は優しいから「だいじょーぶ」と言ってくれるだろうに。  そして由宇はそのとおり「大丈……」と言いかけたようだったけれど。すぐにその声は消えた。 「晴兎! あれ……」  ばっと顔をあげて、体がまだつらいだろうに起き上がろうとした由宇。しかしあれほど激しかったあとなのだ。腰が痛んだようで、すぐに「う」と呻いて元の位置に戻ってしまった。  それはともかく、由宇の言った「あれ」というのは。  そちらに視線を向けて、晴兎は目を丸くした。  ちらちらと舞うものがある。曇天の空から、庭へ向かって白いものが落ちてきていた。 「雪! 降ってんじゃん!」  由宇の声が一気に明るくなった。まだ動けないためか、元気にそちらへ向かうというわけにはいかなかったけれど、きらきらと目が輝いただろう。 「ほんとだ。いつのまにか降ってきてたんだな」  はらはらと散るそれは案外大きな粒らしい。椿や南天の葉にうっすらくっついているのが見えた。 「すげぇ……こんなに降るの見たの、どれくらい久しぶりかわかんね」  由宇の声が感嘆になる。 「雪見風呂、ってやつになったな」  言ってから実感した。コトに及んだあとの心地良い倦怠感も手伝って、お湯がいっそう心地いい。おまけに目の前ではうつくしく雪が舞い散っているときた。  由宇は、はぁー、と息をついて、晴兎の腕を握った。  それに応えるように晴兎は腕に力を込めて、由宇を引き寄せる。  今、言うべきだと思ったのだ。 「お前に見せたかったから、嬉しい」 「え?」  由宇が不思議そうに晴兎を振り返った。あのことのあとなのだ、目があってちょっと照れたような表情はしたけれど、しっかり目を見てくれた。 「お前、ほとんど見たことないって言ってただろ。だからさ」 「そう、だった……のか」  晴兎の言葉に由宇は感嘆したように、ぽぅっと言った。それから前に視線を戻す。 「金沢なんて寒いところだから、降るかもしれないって言ったよな。でも見られるかどうかは運だったから。叶って良かった」  晴兎の言うことを、由宇はただ聞いていた。目の前でちらちら舞う白に見入っていて。  ちょっと恥ずかしいこと言っちまったかな。  晴兎のほうが恥ずかしく思ってしまったけれど。  きゅっと、握られた。今度は腕ではなく手を。指を絡めて。 「……ありがと」  しっかり触れ合った手は、さっきのことでひとつになった心を示しているようだった。  由宇の声は落ちついていた。ついさっきはしゃいだ声を出したのが嘘のようだ。 「お前と見られて、俺も嬉しい」  言ってくれたことも、晴兎の気持ちとぴったり合わさるようなもので。  由宇の体温も、言ってくれた言葉も声も、すべてが心の中に染み入っていく。 「……のぼせちまわないように気を付けないとだけど。もう少し見てるか」 「うん」  きゅっと由宇の体を抱きしめて。  目の前で舞う白を堪能する。  由宇に見せたいと思ったことが叶って、幸せなのは自分のほうだ、と感じながら。

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