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第1話 プロローグ

芹はそっとイリヤの隣に身体を滑り込ませる。毛布の中は温かくて、当たり前だけどイリヤの香りがした。 落着くなあ、と思う。だから深呼吸して、イリヤで胸をいっぱいにした。 今日は珍しくイリヤは壁を向いて、芹には背中を見せている。寂しくなって、芹は自身の額をイリヤの背に押し付けた。そして起きないことを確認すると今度はシャツの裾を握って、身体を密着した。 イリヤは意外と体温が高い。子供体温かと思ってくすくす笑ってしまう。以外にもいつまでも子供っぽいところがあるというか、そんなイリヤが芹は大好きなのだ。 愛しさが溢れて、芹はイリヤの背中にキスをする。ちゅ、ちゅ、と幾度も繰り返した。 形の良い肩甲骨に翼が生えて、どこまでも行けるようになればいい。 果てのない世界だとしても、イリヤならきっと辿り着けるはずだ。 そして僕は、蒼穹を見渡せる地上でずっと見守っていたい。 願いをかけた。想いも込めた。 だから、一際長く肩甲骨に口付けた。 「芹…。」 「あ。」 どうやらいたずらが過ぎてしまったらしい。イリヤを起こしてしまった。 「おはよう。」 「おはよう、じゃないよ。今、絶対に可愛いことしてたでしょ。」 「些細なことだよ。」 「へえ。」 イリヤは振り返って芹を抱きしめた。 「言っておくけど、俺は芹が部屋に入ってきたところから起きていたんだからね。」 「結構前だね。気が付かなかった。」 ぎゅう、と芹の頭を抱えるように、イリヤは腕に優しく力を込める。芹の柔らかい髪の毛を手の平に馴染ませて、堪能した。 「…芹はいきなり甘えてくるから、心臓に悪いよ。」 イリヤは溜息をつきながらも、それでもやはり嬉しいのだろう。声色はとても穏やかだった。 そこは世界の果てだったけど、中心だった。 「ひ…っ、あ、ぁあ。」 泣き声と共に、ぐちゅぐちゅと水気を含んだ音が室内に響く。肌と肌がぶつかる度に、汗が散って空気に籠った。 異国のバレエ教室の用具室で、水落 芹が複数の男に犯されている瞬間だった。 「―…グランプリは、セリ・ミズチ!」 芹は日本で行われた国際的なバレエ・コンクールで優勝を果たし、異国のバレエ劇団『ラススヴィエート』への留学の権利を勝ち取った。バレエダンサーの夢を追い、遠い異国の地に降り立った芹を劇団のコーチであるイリヤ・ベルガモットは歓迎した。イリヤは若くして劇団の一端を任された期待の人だった。イリヤはその才能に忌み嫌われることもあったが、それ以上に大らかな人柄と子供の様な感性に慕う人の方が多かった。 「芹。君は宝石の中で唯一、人の体温を感じさせる東洋の真珠のようだ。」 そう言って、イリヤは芹を称賛する。イリヤの言葉は芹にとっての宝になり、糧となった。より一層バレエにのめり込んでいき、芹は若葉が育つ速度のようにぐんぐんと上達した。 それを面白く思わない連中というのは、どこにでもいた。芹を傷付ける理由なんて他愛もないことで、イリヤを独占しているように思えた者たちによる子供じみた嫉妬心だった。最初は陰口や物を隠されるなど精神的な攻撃だったが、今はもう精神と身体、両方をズタズタに傷つけられている。きっかけは、芹が嫌がらせは止めてほしいと直談判したことに遡る。もっともな意見は火に油を注ぎ、誰もいなくなる頃まで練習で居残る芹を陥れることに始まった。いつも通り練習を終え、バレエシューズを脱ぎ、身軽になった瞬間に用具室に連れ込まれた。芹は怯え、叫び声をあげることもできなかった。 用具室では腕をタオルで縛られて身動きを取りづらくされた。後退っても、すぐに壁にぶつかってしまう。 「怖いのか?大丈夫、大丈夫。すぐに何もわからないようにしてやるから。」 「後にも先にも、感じたことの無い快感を教えてやるよ。」 男たちは笑いながら芹を追い詰める。そしてついに芹の服に手が伸びた。 「やめ…っ、こんな、ことして…どうなるか…、」 口先だけでも抵抗しようとすると容赦なく張り手が飛んできた。頬をぶたれて、勇利はバランスを崩し倒れ込んでしまう。 「うるっせーな。お前が黙ってればいいだけの事だろ。」 そういうと芹の上に跨って、無理矢理服を脱がし始めた。縛られた腕に衣服が溜まり、下半身の衣服も下着ごと取り払われてしまう。 「嫌っ…。」 芹は顔をいやいやをするように横に振った。間髪入れず殴られて、男たちに笑われた。 「最初に決めた通り、一番目は俺な。」 嫌がる芹を抑え込み、地獄の様な時間が始まった。 足を開かせて、潤い無しに乱暴に芹の秘部に容赦なく指を入れて掻き混ぜ、僅かに滲む血液を潤滑油代わりに男自身を挿入された。泣き叫べば殴られた。何度も何度も抽出されて、男の先走りで芹の体内は汚されていく。そして一際大きく穿たれて、男は芹の中にとくとくと精液をぶちまけた。 「ふ…ぅ。うー…。」 それが何度も、何人も続き、芹の身体は弛緩してぐったりと床にそのまま横たわった。桃色だった乳首は紅く腫れあがり、噛まれたり、嬲られた痣が体中のあちこちに出来ていた。汗ばんだ肌が呼吸をするごとに上下する。秘部からは男たちの精液が交わり合って、こぽりと泡を立てて零れていた。顔は涙でぐっしょり濡れている。 「おい。写真、撮っとけ。」 足の指一本動かせない芹はただ、されるがままだった。フラッシュがたかれて、凌辱された姿を撮影されて、芹は息も絶え絶えに泣いた。 「この事、誰かに漏らしでもすれば、写真をばらまくからな。」 そう言われ、芹の腕を縛っていたタオルが解かれて、やっと解放された。 芹はぼろぼろになりながら服を着替えて、バレエ教室を後にした。泣きながら帰った。泣いて、泣いて、泣いて。頭に熱が籠ったようにぼうっとした。だからだろうか。信号機が青から赤に変わったのに気が付かなかった。見通しの悪い交差点。夜更けの暗い時間帯。天気は雨だった。 はっと気が付いたころには、目の前にけたたましいクラクションを鳴らした大型トラックが迫ってくるところだった。 期待のバレエ・ダンサー、水落 芹。交通事故で、足を切断。 翌日の新聞の一面の見出しだった。

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