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気を引き締めて(3)
「…生徒会長さんが何の用ですか?」
身構えることなくかけられた声に驚いて、思わずトゲのある返事をしてしまう。
「驚かせたか。悪い。でもそんなに緊張しないでくれ。少し聞きたいことがあるだけなんだ」
「…なんでしょう?」
「まず体調は大丈夫か?昨日始業式の途中で倒れたみたいだったけど…」
「それなら、大丈夫ですよ。一晩寝たら良くなりました」
本当は使用人のすみれにケアをしてもらったおかげだが、そんなこと言えるわけがない。
「そうか、それなら良かった。
…あと、もう1つなんだが」
何だか歯切れが悪い。
「もしかして、どこかで会ったことあるか?」
「…はい…?何を突然ナンパの常套句みたいなことを…」
「いや、悪い、そうだよな。どこかで見たことあるような雰囲気だったからさ、急に悪かった。」
首の後ろを擦りながらにへらっと笑う。
皐月はそんな天草の様子を見て、やっぱりこの人の前で身構える必要はないのではないか思い始めた。最初のあれが変だっただけで、やっぱり何のことはない、普通にしてても今まで通りだ。
そんなことを、表情には出さずに考えていると、ああそれと、と天草が口を開いた。
「その、生徒会長さんっていうのは少し固く感じるから…、天草って呼んでくれ」
ドクンと心臓が1つ大きく鳴った気がする。
「……分かりました、天草先輩」
なるべく声が震えないように。今の心臓の音は気のせいだ。
「うん、素直でいい子。
じゃあな立花、スピーチ楽しみにしてるよ!」
天草はそう言って大きく頷いて、皐月の頭をくしゃっと撫でて去っていった。
必死で足に力を入れて耐え、天草の姿が見えなくなった途端しゃがみ込む。膝はぎりぎりついていない。頬が火照って熱い。確実に赤くなっているだろう。先程ドクンと大きく鳴った心臓は、今は速さを増してドクンドクンドクンと連続で大きく鳴っている。
(なんだ今の、何だったんだ…)
名前を呼べと言われて、その通りに呼んで、褒められた。妙に高揚して、嬉しくて仕方がないような気持ちになる。
これが、すみれ曰く相性の良いDomからの命令とご褒美 …。
こんな、何でもないような、日常の会話のようなもので、こんなにも嬉しくなってしまう。
危険だ。自分を保てなくなるなんて。
やっぱりSub性なんて厄介で仕方ない。
あの人には極力関わらないようにしよう。
この瞬間、皐月はそう心に決めた。
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