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気を引き締めて(2)
初回だからと殆どが科目担当の教師の自己紹介で授業が終わり、いよいよ放課後になった。生徒会室に集まった人たちを見回して、まだ生徒会長は来ていないことを確認する。
軽く数えてみる限り、立候補者はざっと20人程だろうか。
どんな人が立候補しているのかと、普段あまり周りに興味のない皐月もそわそわと1人ずつ顔を見回してみる。
中には入学したばかりの1年生もいるようだった。
花柳学園では、生徒会長は前年度の生徒会長からの指名で決まり、それ以外の役員はその1年の最初1週間の間に立候補と投票によって決まる。これにより新入生の1年生でも生徒会に立候補出来る。だからいてもおかしくはないのだが、中々勇気のある子だなと関心していたそんな時だった。
ガラガラっとドアが開いて、
「おお、結構集まってるな。」
「へぇ…今年はちょっと多いな。おまえの影響か?」
生徒会長と、どこかで見たことのあるような、しかし思い出せない顔の人が並んで入ってきた。
生徒会室の空気が少し固くなる。
「そんな訳ないだろ。俺を買い被りすぎだ。」
生徒会長がははっと笑顔を見せた途端、固まったばかりの周りの空気が少し和らぐ。
「…やっぱそうだろ。お前に使役されたいってやつが半分ぐらいはいるんじゃねえか。」
「おい、使役とか言うな。そもそもダイナミクスはそういうのに使うんじゃないっていつも」
「へーへー分かった分かった。いい加減自己紹介しようぜ。」
話を遮られた生徒会長は軽く息を吐き、そして皐月たち立候補者に向き直った。
皐月も恐る恐る顔を上げてみる。
「俺は、今年の生徒会長を務めさせてもらう天草紅蓮 だ。紅蓮と書いてレンと読む。よろしくな。」
皐月は集まった立候補者の中でも端の方にいたので目は合わなかったが、珍しい読み方をする名前だなーなんて軽く現実逃避するぐらいには緊張していた。それ程昨日のことがトラウマになりかけているのだ。
「俺は水谷桐真 。去年は会計で生徒会に関わっていた。今年は副会長を狙うから、立候補するなら副会長以外にしとけよ。」
少しトゲのある言い方をしたその人は、どこかで見た覚えがあったと感じた記憶の通り、去年の生徒会の中で見た姿だった。
「おい、そんな言い方しなくてもいいだろ。皆も、好きな役職に立候補していいんだからな。こいつが当選するとも限らないし。」
「はあ?俺が副会長になるに決まってんだろ。」
「おいおい初っ端から喧嘩か?」
軽く言い争いを始めた2人の間に入ってきたのは、皐月の担任であり生徒会の担当でもある油木先生だ。
「幼なじみだからって仲良くするのはいいが、さっさと説明して解散するぞ。俺は他にも仕事があるんだ。」
水谷は顔を顰めて油木から素早く視線を逸らし、そうですねと答えた天草はまた立候補者たちに向き直って選挙に関しての説明を始めた。
「1週間後に全校生徒が集まった講堂でスピーチを行う。それが終わり次第、教師と俺も含め、立候補者以外の学校に関わる者たちの投票が始まる。結果は次の日に発表する」
この学園には、この時期だけ集められる、生徒会長を主とした選挙管理委員会があり、その選挙管理委員会が投票の結果を纏めてくれる。続いてそう説明した天草は、最後に立候補者全員の名前を聞いて名簿に書き記し、解散とした。
皐月は生徒会室を出てほっと一息つく。天草に名前を聞かれた時はどうしようかと思ったが、案外大丈夫だった。なるべく目を見ずに、鼻の当たりに焦点を当てながら、冷静に名前を告げた。体調が良かったのと、身を構えていたのが功を奏したのだろう。
身構えて固まった肩を回しながら、自分の教室に荷物を取りに帰ろうと歩みを進めようとした時だった。
「ちょっと待ってくれ」
不意に声をかけられて肩を揺らす。
呼び止めたのは天草だった。
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